6月25日/疑惑の牧師2

「そのとき聞こえていたのが、弦楽四重奏の死と乙女だ」

「シューベルトの?」

「そう。あまり学校に行きたくないと明日架がいうので、からだに巣食う悪魔を追い払う儀式をしたと牧師は母親に話したらしい」

「裸にして?」

「その方が悪魔を追い出しやすいらしい」

「ふ~ん、悪魔祓いか・・・。それで母親は納得したの?」

「むろん納得はしなかった。引き立てるようにして娘を連れ帰り、英語教室に通うのを止めさせた。・・・ところが、明日架は英語教室は辞めたけど、そのあとのオルガン教室とやらには、親にかくれて行っていらしい。牧師館は小高い丘のふもとにある。娘が行くときまって死と乙女が大音量で流れるので、近所のひとは娘が何かされているのではないかと噂した。母親は気が気でなかったが、どうしても牧師館に行くという娘を止められなかった」

そこまで話すと、吉沢は階下に降りて缶コーヒーを2本手にしてもどってきた。

「そこで事件が起こった・・・」

と続きを語りだした。

「ある夜、9時を過ぎても明日架がもどらなかった。母親は、すぐに牧師館に出かけて娘を返すよう談判したが、牧師は娘はとっくに帰ったの一点張りで、しまいにはすごい剣幕でわめきだした」

「・・・・・」

「それで、母親は警察を呼んだ。警察は牧師館の中をひと通り調べたが、娘は見つからなかった。携帯を鳴らし続けたが電源はオフだった」

「・・・・・」

「ただ、牧師の居室のベッドの上に娘の下着があった」

「へえ」

「警察が問い詰めると、牧師は、娘が忘れていったと弁明したらしい」

「下着をねえ・・・」

あまりに話が微に入り細に入りすぎているので、この少女失踪事件そのものが吉沢の作り話ではないかと疑った。

「どうして下着だけおいて失踪したのだろう?」

半分冷やかすようにたずねると、

「いつも裸にして悪魔祓いをするが、その夜はどうしたわけか下着をはくのを忘れて帰ったようだと牧師はまじめくさった顏で答えたそうだ」

そいういう吉沢も、神妙な顔で話を続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る