6月25日/疑惑の牧師3

「妙だよね」

「何が?・・・下着をはかないで帰ったこと?」

「それもそうだが、ふつう裸のひとが真っ先に身につけるのが下着だよね」

吉沢の作り話の嘘を暴いてやろうと思った。

「先に洋服を着てから最後に下着をはくのは変だよ」

「そりゃそうだ。・・・悪魔祓いで意識がもうろうとしていたのか。ああ、それか洋服を着てからあとで下着を脱がされたか」

「どうして?」

「少女が帰ったあと、牧師が匂いを嗅いで思いにひたる、とか」

牧師が下着フェチというのは笑えたが、吉沢は口から出まかせをいって話を盛り上げていると思った。

「ああ、わかった。少女は裸のまま拉致されたんだ。牧師が彼女の脱いだ洋服をいっしょに持っていこうとしたが、下着だけベッドに置き忘れた」

吉沢は、一瞬ぽかんととしたが、手を打って拍手をした。

これはほめているのではない、小馬鹿にしているのだ。

「でも、どうやって裸の少女を拉致した?・・・牧師館に車はない」

挑むような口ぶりで吉沢はいった。

どうでもいいことでなので、

「さあ・・・」

と肩をすくめてことばを濁した。

吉沢はデスクの上のノートパソコンを立ち上げて、投稿サイトの書き込みの画像を見せた。

暗闇の中に牧師館が映し出され、高窓におぼろげな少女の顔が映っていた。

次の画面では、裏庭に鬼火のような光のかたまりが漂っている映像が見れた。

「明日架が失踪してしばらくこんな投稿写真が出回ったが、ひと月近く経ったおととい牧師館のホームページにこんな映像がアップされてさ。すぐに削除されたが・・・」

といいながら、ダウンロード保存した牧師館のホームページをモニター画面に映し出した。

・・・いきなり画面いっぱいに、教会の白い壁面の木の十字架がアップで映り、次に血に染まった祭壇の上に、白いエプロンの胸にナイフの突き刺さったフランス人形が横たわる画像に変わった。

荘重な死と乙女の弦楽四重奏が流れる中、真っ赤な血潮が上からに滴り落ちるようにして、画面ぜんぶをゆっくりと赤く染めていった。

次に、血で染まった画面は真ん中で斜めに引き裂かれ、その裂け目に蒼ざめた少女の死顔が一瞬だけ見えて閉じた。

画面下端にSAVE THE MAIDEN!の黒文字が現れ、その下に地元の○○信用金庫の口座名と口座番号のテロップが横スクロールした。

そのままフリーズした画面は、ガタガタと激しく上下に揺れた。

吉沢はこのフリーズした画面と、えんえんと流れ続ける死と乙女のメロディーを切ろうと、あれこれボタンを押し、マウスを操作した。

だが、どうしても閉じることができず、やむなく電源コードを抜いて、やっとこさ画面と音楽を消した。

「死と乙女って英語だとDEATH AND THE MAIDENだから、SAVE THE MAIDEN!は、乙女を救え、という意味だよね。・・・身代金を払って少女を救えってことだ」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る