6月25日/疑惑の牧師1
吉沢の下宿先は北区の住宅街の中ほどの古民家カフェと聞いていたが、雨がしめやかに降る中を、看板も何もない店を探すのはひと苦労だった。
やっと探し当てた店に入ると、アンティークのテーブルと椅子が雑然と並び、ランプ風の照明器具と古伊万里の什器がそれぞれのテーブルにこれまた雑然と置いてあった。
カフェというよりよりも、むしろアンティーク家具と雑貨を売る店のようだった。
吉沢とは遠い親戚だという不愛想な中年の店長が、吉沢の名を告げると黙ってキッチンカウンターの奥の階段を顎でしゃくった。
二階は畳の和室が二部屋だけで、階段の上がりはなの和室はアンティークの小物が山のように積み上げられて倉庫代わりになっていた。
雑貨の山をかき分けるようにして入った奥の部屋で、何のあいさつもなく吉沢が出迎えた。
吉沢が書棚を背にして畳に座わったので、こちらも向き合って畳に腰を下ろした。
否応なく彼の背の書棚に目がいった。
江戸川乱歩や小栗虫太郎の全集とともに、ホラー関連の本やDVDがびっしり並んでいた。
こちらの視線に気が付いた吉沢は、机の引き出しから大判の本を取り出して、俺の大事な宝物を見せてやるといわんばかりに、畳の上に開いた。
それは、あられもない裸の少女たちの死体を集めた分厚い写真集だった。
こんなものが書店に並ぶはずもないので、自費出版ものを通販で手に入れたにちがいない。
盗むような目でこちらをうかがったが、あまり興味がなさそうな顔をしたので、吉沢はそそくさと写真集を元の引き出しにしまい込んだ。
気を取り直した吉沢は、
「牧師館の事件だけど・・・」
とやっと本題に入った。
「軽井沢で結婚式をあげるカップルが増えてさ。蔦のからまる煉瓦造りの牧師館が絵になるとかで、けっこう忙しいらしい。でも、忙しいのは週末だけで、牧師はふつうは平日の午後に英語教室を開いて中高生に英語を教えている」
「ああ、牧師は外人さんか」
吉沢はうなずくと、
「その教室に通う明日架という女子中学生は、フランス人形のようにかわいいと地元で評判の子で、牧師も特別に目をかけていたらしい」
フランス人形のようにかわいい女の子ってどんなだろう?
「で、英語教室が終わると、明日架にだけ特別にオルガンを教えるといって居残りさせていた。だが、しばらくすると、牧師がいやらしいことをする、と明日架が母親にチクったらしい。それで母親が、英語教室が終わるころ合いを見はからって教会へ押しかけたが、牧師も娘もオルガンのある礼拝堂にはおらず、中二階から大音量の音楽が聞こえた。中二階のバルコニーの奥は牧師の居室になっていて、部屋に入った母親は牧師のベッドで娘が裸で横になっているのを見つけた」
ここまで話した吉沢は、もったいをつけるようにひと息ついた。
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