第59話 地底にて……
オレたちは充分に警戒しつつ、ゆっくりと虚空を落下していった。
種明かしって程の事じゃない。
フィオナに風の魔法を使ってもらっただけだ。
なんとフィオナは浮遊魔法を使えたのだ。
オレもついさっき知ったことなのだが、飛べはしないもののフヨフヨと浮くことができるらしい。
フィオナによると、これは聖女として自覚できた頃から使えるようになった幾つかの魔法の内の一つだそうだが、最初っから頼っていれば良かったな。
段々と直下の光源が近づいてくる。
……マジか。地底だぞ? こんな場所にあるだなんて。
オレたちは怪我をすることなくゆっくりと落下すると、光を放つ泉に着水した。
深さは、
ジャブジャブと水を掻き分け、お姫さまだっこしていたフィオナをそっと泉の外へと運んだオレは、フィオナの足を濡らさずに無事地面に降ろすと、
水が入ったブーツがガポガポ音を立てているがそこは我慢だ。
泉の中央に設置された五体目の金色の女神像に近寄ったオレは、台座を数段登るとそっとその足に触った。
◇◆◇◆◇
『
「腐るだけ余計だよ。ま、死にかけのオレに新たな運命を運んできてくれた礼もあるし、せいぜいメロディちゃんの期待通り動いてやるさ。メロディちゃんが女神の威光って奴を存分に発揮できるようにな」
『はっは。期待しておるぞ、
真っ白な巨大玉座の上で
思惑通り順調に冒険が進んでいるからか、かなりご機嫌な様子だ。
オレは早速希望を述べた。
聞いていたメロディちゃんの表情が、みるみる驚きに変わっていく。
「できないか?」
『できない訳では無いが今のお主では維持できん。聖女三人から指輪を通してお主に魔力が注ぎ込まれれば……そうさの、五分くらいは持つだろうが、現状では五秒がやっとじゃぞ?』
「いいんだ。あくまで魔王戦用秘密兵器だからな。それで構わないよ、頼む」
『分かった。ではそのようにしよう。それにしてもお主、面白い事を考えるのぉ。ではせいぜいお手並み拝見とさせてもらおうかの』
女神メロディアースはオレを見て、ニヤっと笑った。
◇◆◇◆◇
「えーーーー!? わたしここでお留守番なのぉぉ??」
「しょうがないだろ。怪我してて長時間歩けないんだから。心配するな、リーサたちの安全が確保できたら迎えにくるから」
「魔物が現れたら?」
「泉に飛び込め。今まで金の女神像を五体見たが、どれも強烈な神気を発していた。七霊帝でさえ
「うぅー、早く戻ってきてよね? 大人しく待ってるから。絶対だよ!!」
オレはフィオナに向かって手を振ると、携帯松明に火を付けつつ泉への侵入口となっているらしき通路に入った。
出入り口はこれ一個きりだ。他の選択肢はない。
仕方なく女神の泉の広間から一本だけ伸びる坂を上ったオレは、ほんの五分ほどでレールが二本走るちょっと広めの通路にぶつかった。
ご丁寧に終点ときている。
つまりこのレールは、女神の泉行きの専用線として敷かれたってことだ。事故回避とかのご利益を考えたってことなのかね。
閉山と同時に忘れ去られたのは仕方ない。どっちみち金の女神像の本分は勇者の武器強化用だし。
「とりあえずこれを上って行くしかないか」
この線は集積場にあった五本のレールの内の一本のはず。ということは、これを上って行けば、地上の集積場に辿り着ける。
これでフィオナを無事地上に連れ帰る道は確保できた。
だが、今のオレの目的は、リーサとユリーシャの捜索だ。
途中で他のトロッコレールに行き会えればいいんだが……。
ところが――。
「うぉ! 外に出ちまった! 何だよもう、ハズレかよ。……あ、ホントだ。書いてあるじゃん」
途中で別の線と行き会いたいというオレの願いは無残に打ち砕かれた。
発着場まで戻ると、そこに置いてあったトロッコの操縦パネルに『女神像行き』と書かれた小さな木製看板が掛かっている。
「ちっくしょう、ユリーシャがいたのはあの辺りだったから……この線か。くっそ。待ってろ、今行く!」
と、そこでオレの足が止まった。
半信半疑になりつつ窓からそっと中を覗くと、昼飯のサンドイッチにかぶりついているユリーシャと目が合った。
「へんへ!」
その声に振り返ったリーサがオレに気付き、笑顔になる。
小屋のドアを開けたオレを、リーサとユリーシャの声が出迎えた。
「ヘンヘ! ふひはったひはひへひょはっはぁ(無事だったみたいで良かった)!」
「食い終わってから話せ、ユリーシャ」
「旦那さま! 良かった、ここで出会えて。……フィオは?」
二人とも思った以上に元気そうだ。良かったっちゃー良かったんだが、やれやれ、ドっと疲れたよ。
オレはそこにあった古びた木の椅子にドカっと腰を掛けた。
「怪我をしていたから最下層に置いてきた。女神像の結界の中だから魔物に襲われる心配はない。ちょっと休んだら連れに戻るよ。お前らはここで待機だ」
「んぐ。だったらユリち、一緒に行くよ! 回復魔法をかければ自力で歩けるようになるでしょ!」
サンドイッチを食い終わったユリーシャが任せてよとばかりに胸を叩く。
「しかし……」
「旦那さま。ボクも一緒に行くよ。全員揃っていた方が何かあったとき対処しやすいでしょ?」
リーサが笑顔で頷く。
「それもそうか。よし、じゃ早速荷物を
「センセ、トロッコ、トロッコ! 行きはトロッコで楽しようよ。ユリち、操縦上手くなったから任せて!」
こうして十分後、オレたちはようやく、女神の泉で無事合流を果たしたのであった。
◇◆◇◆◇
「ねね、フィオナちゃん、顔テカテカしてない?」
「そ、そんな事ないよ?」
治療を終えたユリーシャがジト目でフィオナを問い詰める。
頬を赤く染めながらさりげなく視線を逸らすフィオナを見て正解を導き出したユリーシャが、案の定騒ぎ出す。
「した? したの? ズルいぞ! ユリちも! ユリちも!」
「……旦那さま、ボク実はオーバルで旦那さまが喜びそうな凄いランジェリー買ってたんだ。今夜着るから! 待ってるから!」
ユリーシャとリーサが、ガイコツ人形を手のひらに乗せて女神の泉の周りを慎重に歩いていたオレに詰め寄ってくる。
「だぁ! 邪魔するな! 何だもう。ユリーシャはいつもの事だけど、リーサまで。 落ち着け、お前ら。そんな事よりも見ろ、ガイコツ人形を。真横を指してやがるぞ」
「いつもの事って、どういう意味だよぉ!」
とりあえず三人娘が集まってきたので、オレは癇癪を起こすユリーシャをいなしつつ壁面に向かって赤い光を放つガイコツ人形を見せてやった。
「……壁だよ? センセ」
ユリーシャの視線がオレと壁とを行ったり来たりしている。
リーサも困惑顔だ。
ところがこれに反応したフィオナが壁にそっと手を触れた。
「
「間違って繋げちゃって、慌てて埋めたってところか? よし、フィオナ。どのくらいの範囲で異物反応があるのか教えてくれ」
「こーんな感じ」
フィオナがガイコツの指し示す土壁に、持っていた杖の先端でガリガリと跡を着けた。
杖の跡が、何となく扉のような形の長方形になっている。
オレは三人を下がらせると、壁に向かって剣を構えた。
「吠えろ、シルバーファング! 第二の牙、
剣が高熱を帯びて光った瞬間、オレは壁に向かって剣を突き出しつつ
ドカアァァァァァアッァァァァアァンン!!!!
ソードインパクトで壁をぶち破ったオレは、そのまま広大な空間に転がり出た。
暗いかと思いきや、かなり明るい。
もうもうと立ち上る煙が風で流れて晴れるのを待ちつつ、オレは周囲の様子を確認した。
そこは、隠し部屋とは思えないほど広く、立派な空間だった。
壁は綺麗に煉瓦を積まれて作られており、等間隔に壁掛け
床には石畳が平らに敷かれ、上から掛かる膨大な土の重量を散らす為か、精緻な意匠が刻まれた白亜の石柱が規則正しく何本も立っている。
松明が点いてないのになんでこんなに明るいんだ?
天井を見ると、透明なガラス石がビッシリ埋めこまれていた。
そうか、どこか外の光源をここまで運んでいるのか。昼の間はそうやって明かり取りをすると。隠し部屋のくせに、よく考えられているもんだ。
「旦那さま! 敵の気配だよ!」
リーサを筆頭に、隠し部屋に飛び込んで来た三人娘がそれぞれ武器を構えた。
どこに隠れていたものか、ガイコツ兵――スケルトンの大群が、ゆっくりとオレたちに近づいてきた……。
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