第56話 ロートレック鉱山
発端は、途中すれ違った旅人の証言だ。
曰く、この先のロートレック廃鉱山に魔物が巣食っているようだと。
実際、目撃例もある。
冒険者が討伐に向かったという話もある。
だが、帰って来たという話は聞かない。
単純に討伐を終えて先に進んだのか、あるいは、そこで全滅したのか。
場所としては一応、北の大国・ネクスフェリア領にはなるのだが、端も端、しかも鉱石が枯れ果てとっくの昔に閉山したとあって、国もいちいち調査の手を伸ばそうとも思わない。
昔はそれなりに賑わったようで、鉱山労働者を当てにした村もあったのだが、閉山と同時に人がいなくなり、廃村となったそうだ。
三叉路の左端に『この先、ロートレック鉱山』と書かれた看板が立っている。
看板にはご丁寧に赤ペンキで大きくバツ印が描かれているのだが、長いこと野晒しになっているからか、判別しにくくなっていることは否めない。
とはいえ、このあからさまなバリケードを誤って通ろうなんて奴はそういないだろうがな。
オレは首から提げたネックレスを見た。
例のガイコツの人形は、しっかりと廃坑を指している。
このガイコツが反応しなけりゃ、オレだってこんな薄気味悪そうなところ、無視して先を急いださ。やれやれだよ。
ため息を一つついたオレは、看板の後ろに置かれた木製のバリケードをパルフェの通れるスペース分だけ開けると、三人娘に通るように促した。
バリケードには錆びた有刺鉄線が絡めてあるから危ないことこの上ない。
「気をつけて通れ。服とか引っ掛けないようにな」
オレの緑色のパルフェ――ずんだを
それを確認して、オレはバリケードを元に戻す。
結構な重量があるバリケードだったので、ここを通過した他のパーティはバリケードを開け閉めするのにさぞかし苦労したことだろう。
オレは馬鹿力が出せるから平気だけどさ。
そこから更に二百メートルほど一本道を進むと、打ち捨てられた採掘道具がそこかしこにある、大きな広場に出た。
あちこちペンペン草が生えている。
正面にある切り立った崖には、列車用のトンネル並みの大きさのトンネル坑が開いており、中との行き来用なのか、鉄製のレールが二本ずつ計四本、中まで伸びている。
「トロッコでもあるのかな」
「旦那さま、あれ!」
不意にリーサに注意喚起され、そちらに目をやると、作業小屋の辺りをガイコツが二体、平然と歩いている。
四人してすかさず隠れる。
「何だありゃ」
「スケルトンだよ、センセ。見ての通りガイコツ。アイツらが単独でいるとは思えないから、この洞窟内に
「死霊使い……」
「旦那さま、カリクトゥスでのこと、覚えてる? 物理攻撃の効かない魔物が出てくる可能性が高いから気をつけてね」
言いながらリーサは、リュックからボウガンのセットを取り出し、キビキビと左腕に装着した。
矢は当たった相手を火だるまにする、炎属性の呪符を巻いた特製品だ。
魔法が封じ込められているので、実態を持たない相手でもその身体を通過した瞬間に高温発火してくれるという優れものだ。
ふむ。いいな、それ。
オレの場合、光の刃があるが、あれはあくまでボス戦用の技だから、通常使いするには威力が強すぎるんだよな。
洞窟内で下手に使って岩盤を崩しでもしたら目も当てられない。
生き埋めでゲームオーバーなんてゴメンだぞ。
小屋の辺りをうろついていた二体のスケルトンをさっさと倒したオレたちは、小屋の前でパルフェから降りると手綱を繋ぐことなくその場を離れた。
全滅する気はないが、万が一パルフェたちがはぐれスケルトンに襲われた時、逃げられないと困るからな。
そんなオレの思惑を知ってか知らずか、愛鳥・ずんだが、あくび混じりにオレを見送る。
相変わらずのマヌケ顔で不安だが、信じるしかないだろ。
警戒しつつレールに沿って鉱山へと入ったオレたちは、程なく五十メートル四方程度の広場に出た。
そこは集積場兼トロッコの発着場らしく、役目を終えたトロッコが五台ほど綺麗に並んでいた。
発着場から二本ずつ伸びたレールが、それぞれ壁に開いた五つの穴の中に消えている。
さて、どれを行くのが正解か。
オレは再度、ネックレスのガイコツアクセサリーを見た。
その視線は確かに地下を指している。
が、地下に何かあるらしいのは分かったけれど、どの道を行くのが正解かは分からない。
「ありゃ、動いた」
とりあえず端から一本ずつ地道に探索しようとしたその時、ユリーシャの能天気な声が聞こえてきた。
振り返ると、いつの間に乗ったのか、ユリーシャの乗る二人用トロッコが動き出している。
「ユリーシャ。敵がどこにいるか分からないんだぞ? トロッコなんて乗ってたらこっちの居場所丸わかりじゃねぇか。早く止めろ」
「……止まらない。あは」
「何ぃ!?」
見る間にユリーシャの乗ったトロッコがスピードを上げて走り出して行く。
仕方ないから追いかけようとしたその時、突如別の方向から
「きゃああああああ!」
「フィオナ!?」
見ると、発着場付近の地面が結構な広さで陥没し、今まさにフィオナが穴に落ちて行くところだった。
オレとリーサの視線が交錯する。
オレは一瞬の判断で、リーサに向かって叫んだ。
「リーサ! ユリーシャのトロッコに乗れ! そっちは頼んだ! オレはフィオナを救いに行く!」
「分かった! 任せて、旦那さま!」
ところがリーサは、オレが具体的な指示を出す前にユリーシャの乗るトロッコに向かって走り出していた。
この、打てば響くようなレスポンスの良さ。オレの思考を先読みしてるんじゃないかってくらい、素早く的確に動いてくれる。
そういうとこ好きだぜ、リーサ。お前がいるから、こういう時オレは自由に動ける。
「
オレは問答無用で
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