第51話 メイド アルマ=アシュビー
「陛下はお忙しい方な上、我が国には色々伝統的な作法というものがあって、なかなかすぐ会うという事ができんのじゃ。何せ古い国ゆえな。風呂も用意させていることですし、陛下の準備が整うまでこの部屋でしばらくお
かの老騎士ダンダルに連れて来られたのは、離れにある客用小部屋だった。
何やらオレの来た棟は男性用客室とのことで、女性用客室のある別棟に案内された三人娘とは別だ。
そういえば三人娘と離れるのは久々だ。
ダンダルが去るのを待って、オレは室内を物色した。
全部で五十畳程の室内はリビングを中心に寝室が三つ。当然のことながらトイレやキッチンも完備されていて結構快適に過ごせそうだが、さて、言っていた風呂はどんなもんですかね……おぉおぉ、結構広めでいい感じの風呂があるぞ。
ダンダルの説明によれば、舞踏会などで来城する他国の貴族などが泊まる部屋だそうだが、なるほど、この部屋なら納得だ。
調度品も豪華で居心地も良い。
こりゃ、ちょっとしたスィートルームだ。
オレは脱衣所で汗と埃で汚れたチュニックをポイポイと脱ぐと、早速風呂場に入った。
三メートル四方の黒大理石の風呂にはなみなみと湯が湛えられ、湯煙が漂う中、色とりどりの花びらが沢山浮いている。
オレは上機嫌になって風呂に浸かった。
「くぅぅぅぅ、おほぉぉぉぉ。至れり尽くせり、いい湯だな、こりゃ!」
「それは何よりですわ、勇者さま」
オレは不意に聞こえた女性の声に、慌てて振り返った。オレ以外に誰かこの室内にいたのか? 全く気付かなかったぞ?
そこに居たのは、パっと見、オレよりちょっと下――二十代半ばといった感じのクラシカルなロング丈メイド服を着たメイドだった。
おぉ、なかなかな美人だ。
「初めまして、勇者さま。私は勇者さまのお世話を申し付けられましたメイドのアルマ=アシュビーです。お気軽にアルマとお呼び下さい。お湯加減は
「あ、あぁ、申し分無いよ。ところでキミ、いつからいたんだ?」
「つい先ほど、脱衣所に入られたあたりでしょうか。よいしょっと」
なるほど。久々の贅沢風呂に有頂天になっていたからな。それならあり得る。
と、肩まで湯舟に浸かっていたオレの目の前で、湯加減を見ていたアルマが無造作にメイド服を脱ぎ始めた。
下着も平然と脱いで、その場に畳んでそっと置く。
その身体は豊満で官能的。けしからん乳をしながらもお腹回りはキュっとしまっていて、メリハリクッキリの見事なわがままボディだ。
メイドキャップを取ると、胸まであるキャラメルブロンドのゆるふわヘアが現れる。
こんな、よだれが垂れそうな程の極上品が普通にメイドをしているだなんて、世界は広いもんだ。
うちの三人娘も結構なグラマラスボディをしているが、たまにはこんな完成された女体を鑑賞するのもいいもんだ。
アルマはあっという間にすっぽんぽんになると、
ザバァァァ。
お湯が溢れて排水溝に流れて行く。
「……えっと、え? これ、どういう状況?」
「ふぅ。確かに良い湯加減ですね。では、お背中を流させていただきますね」
身体を桜色に染めたアルマがタオル片手にニコっと微笑む。途端にオレのパオーン号が激烈に目を覚ます。
うぉ、色っぺぇ!!
「私は陛下との会合の準備が整うまで、勇者さまのお世話をするよう
「……身体を洗ってくれるのかい?」
「はい。そのつもりできました。いりませんか?」
「うっはは、いるいる! ついでにえっちな事もお願いしちゃったりして?」
「それをお望みであれば喜んで」
「ぶはっ。ゲホゴホ。んーー、じゃ、えっちな事をお願いしちゃおっかな!」
オレはチラチラ上目遣いでアルマを見た。
言っちゃあ何だが、こんな情けない表情、三人娘には絶対見せられねぇ。
だが、アルマはニッコリ微笑んで答えた。
「喜んで。ただし、そういうことはベッドで」
「むふー! んじゃ早速行こうか!」
風呂で身体をすっかり綺麗にしてもらったオレは、アルマに手を引かれ、寄り添いながらフカフカのベッドに倒れ込んだ。
◇◆◇◆◇
あー、うん。なんか久々だよね、こういうの。つまり、経験が生きないってやつ。
三回くらい……したかな? メイドのアルマも結構な乱れようで、いやまぁ、興奮した興奮した。
何て言うの? しばらくぶりに三人娘以外の女性と致した事だし、いけない浮気をしているような背徳感も相まってさ。
お陰でコレだよ。
オレは脇でグッスリ寝ているアルマを起こさぬよう、主寝室のキングサイズベッドからそっと起き上がると、リビングの壁に設置された鏡の前に立った。
首を曲げて鏡に写った背中を見る。
ほぼ中央に深々とナイフが刺さり、背中一面血で真っ赤に染まっている。
いきなり背中を刺されて気が付くと、アルマの目が赤かった。
いつの間に施されていたものか、アルマは敵の催眠に掛かり、オレの暗殺をしようとしていたのだ。
ま、実際ナイフで刺すこと自体は成功したわけで、オレが死ななかったのは女神メロディアースに与えられた
隙を突いてアルマを気絶させたが、起きたところでどこまで覚えている事やら。
だがこれで、オレがまだ生きている事を敵に知られたはずだ。
さて、どうしたものかな。
身体が硬いなりに何とか背中からナイフを抜き取ったオレは、血を拭う事もせず、急いでチェニックを着た。
傷も塞がり、痛みももう無くなっているが、うへぇ、背中が血で濡れてて気持ち悪ぃ。
コンコン!
ちょうど服を着終わったのでドアを開けると、そこには老騎士ダンダルとお付きの騎士たちがいた。
あー、駄目だ。コイツらも目が真っ赤になっている。
「おのれ魔族め、すっかり騙されたわい……」
ダンダルたちが剣を抜くのと同時に、オレはダンダル爺さんにちょっとキツめの蹴りを放った。
背後に立っていたお付きの騎士たちもろとも廊下の反対側の壁に叩き付けられたダンダルが、その場に崩れ落ちる。
オレはその隙を逃さず廊下に出ると走った。
走り出しといてなんだが、どこへ行こっかね。
……敵対催眠がどこまでかかっているか確認する為にも、王様に会ってみるか。
王様までもが催眠にかかっていたらどうにもならんけど。
そこでオレは、別棟にいると言う三人娘のことを考えた。
三人娘のいるところは女性棟だそうだから、騎士たちは基本入ることはできないだろうし、三人揃っている限り襲われても何とか対処できるだろ。敵のメインターゲットはオレなわけだしな。……いやいや、浮気して後ろめたいわけじゃないぞ?
んじゃ、行こっか。
オレは窓の外に生えている木を伝って建物の屋根によじ登ると、屋根伝いに王宮最奥部を目指して走った。
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