第9話:初キス。
祐介とシュシュは回転寿司の店に来ていた。
店は夜と違って、混んでいて待たされる、ということはなかった。
ふたりは、すぐにボックス席に座った。
「ほら寿司が皿に乗って回ってるだろ・・・、どれでも食べたい寿司取って、
食べればいいから・・・ 」
「取ったら醤油かけて食べる・・・分かった?」
祐介は回ってきたマグロの皿を取って醤油をかけてシュシュの見てる前で
食べて見せた。
でも、ひとつ問題・・・シュシュは箸の持ち方が分からない。
「ああ、箸の持ち方から講習か?・・・」
「それはまた家で教えてやるから」
「寿司だし・・・箸は使わなくていいよ、素手で食ったほうが早いから」
そう言うと祐介は手で寿司を持って、また寿司を食べて見せた。
「今みたいにして食べればいいから」
「それとワサビは嫌いだったらつけなくてもいいからね」
「ワサビ?」
「ちょっと舐めてみ?」
シュシュは言われるままにワサビを舐めた。
「おえっ・・・辛」
「辛いけど、適度に寿司につけて食べると美味いんだ」
「さ、食べよう」
シュシュは恐る恐る寿司が乗った皿を取って醤油をかけて食べてみた。
「美味しい・・・めちゃ美味しい、祐介・・・」
「美味いか?・・」
「美味しいね、お寿し・・・」
「そうか・・・よかった」
シュシュは、うんうんうなずきながら、すぐに次の寿司皿を取った。
「このタブレットのタッチパネルで好きな寿司も選べるからな」
「分かんないだろうけど・・・」
結局、祐介は寿司を20皿食って、シュシュは15皿食って、
おまけでに仲良くデザートのシャーベットまで食った。
シュシュは寿司なんか食べたことがなかったので、めちゃ喜んだ。
「ウチ、ずっとここで暮らそうかな・・・」
「地上って楽しいこと、いっぱいありそうやし・・・」
「こういうのは、たまに食うからいいんだよ」
「今日は、寿司食ったから、次は焼肉だな」
「やきにく?」
「やきにくって?」
「焼肉は焼肉・・・」
「分かんないんだけど・・・」
「そのうち食いに連れてってやるから・・・食えば分かるよ」
「さてと行くか・・・」
祐介は勘定を済ませ、シュシュと店を出た。
人通りも少なくなった歩道を歩きながらシュシュは祐介と手をつないだ。
「迷子になったらダメだから・・・」
「だな」
「イルミネーション見に行くには時間的にまだ早いな・・・」
「それまで、カラオケって手もあるけど・・・行ってもシュシュには
分かんないしな・・・」
「私は祐介といられたら、どこだっていい・・・」
「おお〜そんな可愛げのあること言うんだ」
「私をバカにしてる?」
「違う違う・・・そんなこと言われるとさ・・・
なんつうの・・・胸がキュンってなって、抱きしめたくなちゃうじゃん」
「こんな、人がいるところで抱きしめられたら、おしっこチビっちゃう」
「面白いなシュシュは・・・」
「笑わないでよ」
「俺、シュシュを絶対帰ないからな・・・天界になんて・・・」
「祐介・・・」
祐介はシュシュを引き寄せて、本当に抱きしめた。
「切ないよ・・・シュシュ、俺、君のことどんどん好きになってく・・・
この、あふれそうな気持ち、止められそうにないよ・・・君が恋しくて
泣けてきそうなんだ」
「祐介・・・祐介の気持ち、ちょっと重たいかも?」
「あ、ごめん・・・つい感情が高ぶって思ってること吐き出しちゃった」
「謝らなくていいよ・・・」
「ちょっと重いけど、私嬉しい・・・そこまで想ってくれてるんだって思って」
「嬉しくて泣けそうなのは、私の方だよ・・・」
「シュシュ・・・」
祐介はたまらずシュシュに顔を近ずけて彼女の唇を奪った。
夕暮れ前の歩道に、ふたりの長い影が重なった。
キスの後、シュシュは、うつむいたままなにも言わなかった。
でも、きっと嬉しくて泣いていたんだろう。
笑うことはできなくても、涙を流すと言う感情は忘れてはいなかった。
祐介はそっとシュシュの頭を撫でて、もう一度抱きしめた。
「ほんっとにもう、おしっこチビリそう・・・」
つづく。
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