第5話:暇すぎて背中じゃなく尻に羽根が生えそうなシュシュ。
神谷家の居候になって数週間・・・シュシュは志麻子ちゃんが作ってる料理に
興味津々だった。
この頃になるとシュシュは神谷家に溶けこんでいた。
まるで総一郎さんと志麻子ちゃんの娘みたいに。
そして祐介に対する気持ちも、最初の頼る人から好きな人に変わりつつあった。
祐介は学校に行ってるわけだから、シュシュの相手は志麻子ちゃんしか
いない訳で・・・。
「あなたもなにか作ってみる?」
「遠慮しとく」
「食べられそうにないモノ作っちゃいそうだから・・」
「なんでも、最初ってあるのよ」
「チャレンジになきゃ上手にはならないからね」
「それはそうだけど・・・向き不向きってあるでしょ・・・私はちょっと」
祐介は学校が休みの時、そんな暇を持て余してるシュシュを見て、本気で
どこかへ連れて行ってやろうと思った。
(でも、同級生とかに見られたら、絶対マズいしな・・・)
シュシュのことは誰にも知られたくなかったし、彼女のことを話しても
誰にも信じてもらえないと思った。
シュシュは祐介の顔を見るたび、暇を訴えた。
「あ〜ひま・・・ひま、ひま、ひま・・・ひまなんだけど〜」
「そりゃ、何もしないで、プラプラしてたら暇だろ?」
「俺の母ちゃんの手伝いでもしとけばいいじゃん?」
「俺の部屋、掃除するとか・・・」
「料理とか洗濯とか掃除とか・・・めんどくさい・・・」
「それに私が家庭に収まるような女に見える?」
「ん〜たしかに見えないよな」
「ねえ、どこか行かない?・・・」
「しゃ〜ねえな・・・もうすぐクリスマスだし、街にでも出て
イルミネーションでも見に行くか・・」
「イクイク・・・なに?そのイルネミーなんちゃらって」
「イルミネーション」
「説明するより、その目で見た方が早いって」
「ゆうかさ・・・シュシュ、服の着替えがいるだろ?」
「いつまでも俺の服じゃあな・・・」
「まずは、先にどこか洋服屋さんへ寄ってシュシュの服を買おう・・・」
ってことで、さっそく祐介はシュシュを外に連れ出した。
ふたりは電車に乗って街まで、でかけた。
「バカにしないでよ・・・私だって電車くらい知ってるんだから」
「おおお・・何、急に・・・俺はなにも言ってないだろ・・・」
「祐介、私のことなんにも知らない女だって思ってない?・・」
「あのさ・・・電車知ってるってことは天界?とやらにも電車走ってるの?」
「そんなもの、ある訳ないでしょ・・・」
「天使だった時、たまに地上に降りて来てたから、それで知ってるの」
「ああ、神様の使いかなんかで?」
「違う・・・天界での仕事が面倒くさくなったから、サボりに地上に降りて
きてたの」
「天使って、みんな君みたいな子ばっかなの?」
「まあ、中には変な天使もいるけど、たいがいはみんな、いい子ばっかだね」
「私は、ちょっと落ちこぼれだったけど・・・」
「落ちこぼれか・・・ポンコツ天使ってわけか・・・」
「ポンコツってなによ・・・失礼な」
「俺も似たようなものかな〜って思ってさ・・・」
「じゃ〜祐介出来る子ぶって図書室になんかいたんだ?」
「それがな、不思議なんだ・・・高校に入ってから図書室なんてシュシュが
落ちてき来た日に、はじめて利用しただけだよ・・・」
「なんで、そんな気になったか分かんない・・・まじ不思議だよな・・・」
「私たち、運命の糸で結ばれてたりして・・・」
「あ〜そうかもな・・・」
そうこうしているうちに電車は目的地の駅に着いたので祐介はシュシュを
連れて電車を降りた。
「この街は来たことないかも・・・」
「キョロキョロしない・・・危ないんだから」
そう言うと祐介はシュシュの手を握った。
「迷子になると困るだろ・・」
「迷子になんかならないよ、私を子供扱いしないでくれる?」
「だったら、もしここで俺とはぐれたら俺の家まで帰れるか?」
「・・・それは・・・無理かも」
「だろ?、俺もシュシュにはぐれられたら困るし・・・」
「祐介の手・・・暖かいね・・・」
そう言うとシュシュは両手で祐介の手を握った。
「絶対、はぐれないからな・・・死んでもこの手、離さないから」
そんなシュシュを見て、祐介は笑った。
祐介は心の中では、実はめっちゃ嬉しかった。
シュシュに帰れるもんなら、帰ってほしいわ、なんて言ったが、それは
もちろん本心じゃなかった。
相手が堕天使とは言え、女の子の手なんて触ったことも繋いだことも
なかった祐介。
祐介にとってシュシュとの出会いは、とても新鮮で胸ときめく出来事だった。
つづく。
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