約束したよね

萎びた家猫

帰り道

 いつもの帰り道に私はある男性とすれ違う。私と彼は昔恋仲だった。


 私は彼のことが好きだった。しかしとあるきっかけで彼と別れなければならなくなった。今思うとすべては私の気が弱い事が原因だったのかもしれない。


 私がした行為は彼を苦しませるには十分すぎるほどのものであることは確かだ。それで別れることになってしまったのだから自業自得だと、自分にそう言い聞かせてきた。


 それなのに彼への愛は変わることがなく、未だに私の心を蝕み続ける。


 最初の頃の彼は毎日通る帰り道で、私の前を通ると必ず挨拶してくれた。私もそんな彼に毎日感謝した。


 学校の行事や部活で遅くなっても必ず私の元へ来てくれた。


 私達にとって特別な日には花束を持ってきて「いつまでも愛してる。これからも一緒だよ」などと聞いているこちらまで恥ずかしくなるような事を言ってくれたこともあった。 私も恥ずかしがりながらも「約束だよ?」と返事をした。 彼は恥ずかしがる私に気が付かず、微笑んでいた。


 それなのに今では挨拶もしてくれない。ただ私を横切るだけで、顔すら向けてくれない。


 もう彼の心には私はいなかった。とても悲しくて、でもそれを誰にも言えなくて、ただ私は一人で苦しんでいた。


 ある日、彼は誰かと一緒にいつもの帰り道を歩いていた。相手は女性だった。


 私はそんな光景を目の当たりにしチクリと痛む胸を抑える。私自身こんな風になるなんて思っていなかった。


 何故あの女が彼と親しげにしているのか? その女は私をいつも励ましてくれていた親友だった。


 なんであの女が彼の隣に居るのか、そして彼はどうしてあんなに幸せそうなのだろう。


 私と二人のときには決して見せてくれなかった彼の幸せそうな顔を私は只々呆然と眺めることしか出来ない。


 何故最近彼が私の元へ来てくれなかったのか、私のことを無視し続けていたのかやっと理解した。


 あの女が彼の心を、私だけのものだった彼の隣という場所を奪ったのだ。


 このどうしようもない遺恨が私の中から止めどなく溢れてくる。


 私から彼を奪ったあの女が憎い!!


 いつも私を応援するフリをしていたあの女が憎い!!


 幸せそうな彼の顔を独り占めしているあの女が憎い!!


 憎い…憎い…憎い…!!!!


この感情を私はどうすればよいのだろう?

殺したいほどのこの怨み。


 ああ…そうか。


 あの女がした様に私も彼をあの女から奪ってしまえば良いんだ。そうすれば私はまた彼の側にいることができる。


 次の日までの辛抱だ。私は自分にそう言い聞かせる。いくら憎くても殺してしまうのは可愛そうだ。でも私と同じ気持ちは味わってもらわなければ私の遺恨が晴れることは絶対にないだろう。だから奪い返す。


 そしていつもの帰り道、彼が私の前を通り過ぎる。


 私の足元に置かれ、とうの昔に枯れてしまった花束を見て


「やくそくしたよね?」


 そう小さく呟くと私は彼の方へ振り向き、彼の後についていった。




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