第5話 再戦

 青天の自衛隊富士演習場、再び。

 鳥の鳴き声一つ聞こえない静けさの中、辺りには殺伐とした空気が漂っている。

 それぞれのディバニオンに搭乗した彬と巽は、戦いを前にしてチャンネルを開く。


よう「彬、いよいよ特訓の成果を試す時が来たね」

あきら「ああ、月並みだけど全力を尽くすよ」

曜「その意気その意気。後は作戦通りにすれば大丈夫だよ。そして彬をバカにしている連中の鼻を明かしてやろう」

彬「う、うん。――曜、この一か月間色々ありがとう」

曜「ふふふ、お礼を言うのは今日勝ってからにして。じゃあ、行こっか」

彬「了解!」


 彬と曜のディバニオンが、それぞれ別々に行動を開始した。

 両機ともかなりスピーディーに動く。 

 それに対し巽たつみと紫苑しおんはペアのまま、慎重にビルの間を進んでいた。

 実力が未知数な新人の曜を警戒してのことだ。

 が、意外にも、堂々と広場に待ち構える一体のディバニオンを発見した。

 二人は戸惑い、もう一度チャンネルを開いた。


紫苑「あいつらいったいどういうつもり? あれじゃ見つけてくれと言わんばかりじゃない」

巽「奇妙だが……まあ普通に考えたら罠だろうな」

紫苑「同感。絶対そう」

巽「あれは囮だ。もう一体がどこからか銃の照準を合わせているに違いねぇ」

紫苑「きっとそうね。私たちが出て行ったところでスナイプするつもりでしょう。――で、あのディバニオンいったいどっちが乗ってると思う? 彬グズか、それとも新人か」


 ディバニオンはペアの機体は同色――彬と曜のペアはグレー、紫苑と巽のペアはベージュに塗装されているが、そこに誰が乗っているかまでは外観からでは判別できないようになっていた。


巽「考えるまでもない。間違いなく彬のヤローだろ。あの能無しがいくら訓練しても射撃の腕は絶対に上がらん。前回と同じ失敗を繰り返さないように今度は自分が囮役になったに違いないぜ」

紫苑「同感。あの天野とかいう転入生がどこかに隠れているに決まってる。――ね、どうする?」

巽「紫苑、彬の方は放っておいて新人の方を探そうぜ。彬は後回しで十分だ」

紫苑「OK。まずは未知の敵から叩き潰すわけね」

巽「そうだ。よし、行くぜ!」


 紫苑と巽は前方のディバニオンに悟られないよういったん後退し、それからビルとビルの谷間に入った。

 本格的な市街戦を想定したこの演習場は、本物さながらにビルが林立していている。

 しかもかなり入り組んだ構造になっており、ディバニオンが身を隠すような場所は多くあった。


巽「どこだ、どこにいやがる!」

紫苑「落ち着いて、巽。この辺りに必ず潜んでいるはずだから」

巽「いやこれだけ探して見つからないのはおかしい――」

紫苑「でも逃げた様子もなくてよ」

巽「待てよ……! まだ探してない場所が一つあった。上だ!」

紫苑「上? ああそっか!」

巽「急げ紫苑。二対一で一気に叩くぞ」

紫苑「了解!」


 巽と紫苑のディバニオンが機体の背面にあるブースターを噴射させ、地面を蹴った。

 するとディバニオンは勢いよく跳躍し、途中忍者のようにビルの壁面を蹴りながら、一気にビルの上に出た。


巽「どこだ! どこにいる!! こっちはすべてお見通しだぜ」

紫苑「いた! 巽、あそこ! 二つ向こうのビルの屋上!」


 二人はすぐに大型ライフルを持った一体のディバニオンが、ビルの屋上にいることを視認した。

 そのディバニオンも巽と紫苑に見つかったことに気が付きライフルを構えようとしたが、二人の機体の動きの方がまさった。

 トリガーを引く前に、襲い掛かる巽と紫苑――


紫苑「そこ――!!」

巽「見つけたぜ――!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 一か月前、彬と曜が最初の出会った日の翌日。

 特別にミーティングをするからと、彬は曜に誰もいない教室に呼び出された。

 だが、彬は曜の姿を見て面食らう。

 曜は前日と違い、髪を後ろで束ね、男子の制服を着ていたからだ。

 しかし、まったく違和感ない。

 完全無比な美少年と言ったところだ。


曜「おはよう、彬くん」

彬「お、おはよう……天野さん」

曜「うーん、ずいぶん他人行儀だね。呼び方なんて曜でいいから。僕も彬って呼ばせてもらうから」


 曜はしゃべり方まで男っぽくなっていた。

 しかし、声色はやっぱり女性よりだ。


彬「う、うん。それはいいけど――その格好……」

曜「あ、これ? 今日は男子の制服着てみた。どう? 似合っている?」

彬「もちろん似合ってるけど――」

曜「なんか言いたいことありそうだね」

彬「いや、それはその……」

曜「フフフ、僕の性別のこと? この転入生、男か女分からないやって顔に書いてあるよ」

彬「………………」

曜「別に性別なんてどうだっていいじゃん。男か女かだなんて本当に些末なこと。ただ一つ言えるのは――」


 曜はいままでにない最高の笑顔で言った。


曜「僕と君とは対等なパートナーってこと。相棒バディでもいいけどさ。でね、お互いそれを認めれば男だろうが女だろうがそんなこと一切関係ないと思わない?」

彬「そう言われても……」

曜「それより早速訓練を開始しない? 二人の初めての共同作業ってっとこだね」


 曜にけむに巻かれ、たじたじな彬は、なかば強引に、ディバニオンの大型シュミュレータが設置されているトレーニングルームにつれて来られた。

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