第3話 アリス

 場面は戻り先ほどの模擬戦の後。

 ブリーフィングルームに、教官のユリと彬、アリスが向き合っている。

 三人の他に部屋には誰もいない。


アリス「教官! 私、もう限界です! コイツとの――即刻乾くんとのコンビを解消してください!!」


 アリスは彬を指さし、ユリにくってかかる。

 その声は怒りで震えている。


アリス「乾くんのせいで、私がどれだけ損をしているか! さっきの乾くんの戦いぶりのひどさは教官も見てましたよね!!」

ユリ「……白兎アリス、あなたの言い分を聞く前に一つ言っておくけれど」

 アリスに冷たい声で答える。

ユリ「ここは学校――だけれど同時に軍隊でもある。そして軍隊において上官の命令は絶対。そのことを承知した上で乾と組むのは無理だと主張する?」

アリス「はい! 教官が何とおっしゃろうと、命令だろうとなんだろうと、乾くんと一緒に戦うのはもり無理、もうまっぴら御免です!!」


 怒り心頭なアリスに対し、おどおどする彬。

 そんな彬に、ユリが訊く。


ユリ「乾、白兎に対し何か反論することはある? 確かにさっきの戦闘は褒められたものではなかったのは事実だけれどね」

彬「それは――し、白兎さんには、敵は2機いるんだからあまり一気に前に出ないように忠告しました」 

アリス「はあ!? なにその小学生並の言い訳。あんたがのろまだからそうせざるをえなかったんじゃない! それにみすみす敵に後ろを取られちゃったのはどこの誰よ?」

彬「いや、だからって……」


アリス「とにかくアンタと組んでる限り、私が上にあがることはできないの!!」


 言い争言う二人。

 そこでユリがパンッと鋭く手を叩く。


ユリ「はい、そこまで!」


 黙る彬とアリス。


ユリ「白兎、あなたの要望は一応了知しました。それに対し乾、あなたがいったい何を発言したいのかはまったく不明瞭ですね」

彬「…………」

ユリ「黙っていては何も分かりません。教官であり上官である私が発言を許可したのですから、きちんと主張すべきことは主張なさい」

彬「……それは、その」


 ユリは口ごもる彬を見て、ため息をつく。


ユリ「いいでしょう。今日はここまで。二人とも寮に戻りなさい」

アリス「教官! じゃあ……」

ユリ「あなたたち二人に対し、何らかの処置は検討します。それまでは大人しく待つように」

アリス「あーよかった。それでは教官、失礼します」


 アリスはユリに敬礼し頭を下げると、一人でさっさと教室を出て行ってしまう。

 彬はどうしていいか分からず、その場に突っ立っている。


ユリ「乾、あなたも早く戻りなさい」

彬「は、はい」


 彬は形だけの敬礼をし、ふらふらブリーフィングルームを出ていく。

 ユリはそんな彬の背中を見て、首をかしげる。


ユリ(どうして……? 乾彬の潜在能力は他の誰よりも高いはずなのに……)


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 数日後。

 学内の電子掲示板に、見せしめ的に彬とアリスのペアの解消の通知が見せしめ的に告知された。


アリス「やった、やった! あーせいせいした!」


 それを見たアリスが飛び跳ねる。

 そのそばには彬がいるが、アリスは完全に無視する。

 むしろこれ見よがしに喜んでいる。

 そこへ、先日の模擬戦の対戦相手、巽と紫苑がやってきた。

 二人は掲示板に張り出された紙を一瞥して、アリスに声をかける。


紫苑「へーついにペア解消になったんだ」

巽「よかったな、アリス」

アリス「ありがと、これで次は負けないわ」

紫苑「それは楽しみ」

巽「そりゃいくらお前が強くてもな。相棒があれじゃあな」


 三人は彬を侮蔑の眼差しで見た。

 彬はいたたまれなくなって、顔を真っ赤にしてその場を離れた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 自衛隊富士学校に併設されている学生寮。

 その裏手にポツンと置かれた犬小屋。

 辺りに人気はなく、小屋の前には学校で飼っている白い柴犬、シロが大人しく座っている。

 彬はそこにとぼとぼ歩いてきて、シロの前にしゃがみ込んだ。

 彬がシロの体を優しく撫でると、シロは嬉しそうに彬に体をすりつけてきた。


彬「この学校で僕の友達は、シロ、お前だけだよ……」


 彬がそうつぶやいた時――

 誰かが突然、背後から誰かが声をかけてきた。


曜「ふーんその犬、シロって言うんだ」

彬「……え?」


 彬が驚いて振り向く。

 そこには少年とも少女とも判断できない、中性的で美しい天野曜てんのようが立っていた。

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