第2話 入校式

 今回の模擬戦は市街戦を想定しており、演習場の広大なフィールドには本物さながらのビル等の建造物がいくつも作られている。

 A組とB組、互いの機体の位置はまだ分からない。


アリス「本当に足引っ張んないでね!」

彬「……了解」


 アリスはそう言って操縦桿を操り機体を軽々前進させた。

 慌てて後を追う彬。

 が、アリスは彬のことをまるで気にすることはない。

 巽と紫苑の機体の影を求め、ビルの間を進む。

 それからしばらくして――


アリス「あ、そこっ」


 アリスはビルの影に隠れた紫苑の機体を目ざとく見つけ、彬に小声で呼びかけた。 


アリス「いいこと? 私が近接戦に持ち込んで一気に仕留めるから、あんたは上手く援護して。それ位はできるよね?」

彬「で、でも言うまでもなく敵は2体だよ? 最初っから突っ込んでいくなんて無茶だからしばらく様子見した方がいいんじゃ?」

アリス「黙って! こっちはあんたというハンデを負ってんだから、スピード勝負でゆくしかないの!」


 アリスはそう叫ぶと、素早くビルの合間から飛び出ていった。

 彬は止む無くアリスに従うことにして、機体を前進させ、巨大なアサルトライフルを構える。 ところが、緊張で手が震えて照準が定まらない。


アリス「とったぁあっ!!」


 突然紫苑の目の前に出現したアリスの機体。

 それに驚いた紫音の機体が、ちょうど誘い出されるような形になって、ビルの後ろから前に飛び出てきた。


アリス「今! 今よ!」

彬「わ、わかった!」


 彬がライフルのトリガーを弾き、銃口からペイント弾がセミオートで発射された。 が、紫苑の機体からは大きくそれ、流れ弾の一部がアリスの機体に当たってしまう。


アリス「ちょ!! あんた何やってんのよ!」彬「ご、ごめん!!」


 アリスは苦々しげに舌打ちをし、サーベルを抜いた。

 やむを得ず格闘戦に持ち込む気なのだ。

 紫苑もサーベルを抜きそれを受けて立つ。

 しかし最初からアリスに押され気味だ。


 チャンス――!


 彬はもう一度ライフルを構え、紫苑に狙いを定める。

 だが、アリスと紫苑の機体が重なって撃つことができない。

 そこへ――


巽「グズめ、後ろがガラ空きだぜ!!」


  彬も巽のことを警戒していなかったわけではないが、想像よりずっと速い動きだった。

 巽の機体にタックルされ、バランスを崩した彬人の機体は地べたにしりもちをつく。

 それに気づいたアリスが後ろを振り向き、叫ぶ。


アリス「このバカッ! 油断しすぎ!」


 アリスは紫苑の機体を突き飛ばし、返す刀で巽の機体に襲い掛かろうとした。

 だが、巽は彬からアサルトライフルを奪い、アリスの機体に向けて連射した。

 結局ほとんどのペイント弾が命中し、アリスの機体は派手なピンクの蛍光色に染まってしまう。


 オペレーションルームのナビゲーターの一人が、モニターを見て叫ぶ。


ナビゲーター「判定オールレッド。D1,D2――共に戦闘不能です」

ユリ「了解。――四人ともそこまで! 模擬戦はこれで終了します」


 ユリが険しい表情で、彬たちに向かって命令する。

 それに従い、四体のディバニオンは動きを止めた。

 こうして模擬戦はあっけなく終わった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 二十一世紀半ば。

 世界はアジアと欧米に大きく二極分化し、さまざまな面で対立を深めていた。

 そんな混迷深まる世界情勢の中、両陣営のちょうど中間に位置する日本は緩衝国として微辛うじて中立の立場を保っていた。


 今からさかのぼること一年前――

 彬は全国から選抜された約三百名の生徒とともに、自衛隊富士高等学校の講堂で行われた入学式に出席していた。


(なんで自分が……)


 エリート然とした生徒たちの中で気おくれを感じていると、壇上に白い制服をきりりと着こなした、美しき自衛官北条ユリが現れたのだった。


ユリ「みなさん、まずは入学おめでとう」


 ユリは凛とした声で叫び、それから一瞬薄い笑みを浮かべ、続けた。


ユリ「と、言うべきかしら――?」


 その言葉を聞き、一瞬ざわつく生徒たち。

 だがユリはかまわず話を続ける。


ユリ「知っての通り、我が国を取り巻く政治的状況は近年ますます厳しさを増しています。そんな中、我が国は国民皆兵の方針にのっとり、今から10年前に高等教育期間に兵役課程を組み込み、各種軍事教練が必修化されました。一方で当時、未成年の者にそういった訓練をさせることに対する批判もありました。が、しかし今では、人口減少が続く我が国にとって、若者が早い時期から国防に備えることの意義を国民全体が理解しています」


 ユリが壇上から生徒たちを見回す。


ユリ「さて、その中でもみなさんは、中学を卒業した全国三十万人の学生の中から、この自衛隊富士高等学校第三期生として特別に選抜されたわけですが――だからといって他のみんなより偉いというわけではありせん」


 ユリの言葉を神妙な面持ちで聞き入る生徒たち。

 しかし彬は違和感しかない。


ユリ「すなわち、あなた方を始めとする若者三十万人は能力に差こそあれ、人のために、ひいては国のために奉仕するという崇高な理念と目的――それを目指すことにまったく変わりはないからです。分かりますね?」


 ユリはおごそかな口調で続ける。


ユリ「とはいえ、みなさんは何の理由もなくここに呼ばれたわけではもちろんありません。本学では一般の兵役課程とはまったく異なるプログラムを学んでもらいます。すなわち――」 と、ユリは壇上の奥に設置された巨大なモニターの方を向いた。ユリ「このD50――特殊機甲化兵器ディバニオンにテストパイロットとして搭乗してもらいます」


 その言葉と同時に、モニターに灰色のロボット――ディバニオンの全形が大きく映し出されたのだった。

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