機甲神兵ディバニオン

波崎コウ

第1話 模擬戦

 ――この操縦席コックピット、何度座っても嫌な感じだ。


 16歳の誕生日を向かえたばかりの自衛隊富士高等学校第三期生、乾彬いぬいあきらは、小刻みに震える手で操縦桿コントロールスティックをぎゅっと握りしめた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 時は近未来の日本。

 青い富士を望む自衛隊富士演習場。

 その広大な敷地の中央に、今、4体の軍事用有人ロボットの勇姿があった。

 今からつい5年前、国土防衛の切り札として開発されたこのロボットは、正式名称をディバニオンD50式といい、戦車やミサイルなどとはまったく異なる、画期的な性能を持つ最新の地上兵器だ。

 そのディバニオンに、彬はパイロット候補生として搭乗し、厳しい訓練を続けていた。


 ――とにかく今日は何としてでも勝たなくちゃ。何としてでも。


 まもなく始まるディバニオン同士の模擬戦を前に、彬の心拍数はさっきから上がりっぱなしだ。

 なにしろ毎週行われる実戦を想定したこの訓練で、彬はここ数か月一度も勝ち判定を得られていない。

 もし今日も負ければ、教官からの評価はさらに下がって、間違いなく最低ランクにまで落ちるだろう。

 場合によっては、パイロット候補生から外されることさえありうる。

 しかし何よりつらいのは、優秀な同期の連中にバカにされ、ますます一人つまはじきにされることだった。


 「みなさん、おはようございます――」


 その時、コックピットのプロジェクションディスプレイに、彬の指導教官である北条ほうじょうユリ一佐の顔が映し出された。

 予科連隊の主任教官を務めるユリはまだ30手前。黒い瞳が特徴の美人だが、感情をまったく表に出さない根っからの軍人だ。


ユリ「それでは予定どおり、午前10時からチーム模擬戦を始めます。各機散開して配置につきなさい」

彬「はい、了解しました――」


 と、彬は返事をしたが、その前にユリは通信を切断していた。

 別に機嫌が悪いわけではなく、ユリの生徒たちに接する態度は、いつだってこんな調子じなのだ。

 とはいえ、どんなに冷たい教官だからといって、ユリの命令に逆らうわけにはもちろんいかない。

 彬は極度に緊張した面持ちで、操縦桿を前に倒した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ピリピリと張りつた空気の中、灰色に塗られた特殊装甲と大型アサルトライフルを装備した4体のディバニオンは、あらかじめ決められた通り、A組とB組の2対2に分かれた。

 A組のディバニオンに搭乗するのは――彬とそのバディの白兎しらとアリス♀16歳。

 アリスは名前の通り白人ハーフ。美人だが、いかにも気が強く、彬とは正反対のキャラだ。 


 一方B組の搭乗員は――黒須巽くろすたつみ♂17歳。がっちりした体育会系。とにかく強い弱肉強食タイプ。

 そして真加辺紫苑まかべしおん♀16歳。顔は麗しくかつ文武両道に秀でているが性格は意地悪で、自分以外の人間は基本的にバカだと思っているお嬢様だ。


 三人はいずれも全国から選抜され、自衛隊富士高等学校に入校した飛び切りのエリートたちだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 模擬戦開始の直前、アリスが彬とチャンネルを開く。


アリス「ねえ、ちょっと」

彬「な、なに……?」

アリス「一応念を押しとくけど、あんた、自分の役割はわきまえてるよね?」

彬「それは――」

アリス「いい? 打ち合わせどおりあんたは徹頭徹尾私の援護! それだけでいいんだから」

彬「で、でも……」

アリス「なに? 私に口答えするの? あんたの実力で?」

彬「……分かったよ」

アリス「それでいいわ。……にしても、よりによってあんたが私のバディだなんて! ホントありえない!」


 アリスが捨て台詞を吐いて、チャンネルを切る。

 一方、B組の巽と紫苑は余裕な表情でやりとりしている。


巽「ったく。アリスもついてねーよな」

紫苑「ほんと、あんなグズと組まされるなんて」

巽「だがな、紫苑。手加減無用だぜ」

紫苑「そんなの当たり前でしょう。この模擬戦は今後の私たちの評価に直結するんだから」

巽「ならいい。――行くぜ!」


 それからまもなくして、ユリが厳しい顔つきで、オペレーションルームから模擬戦開始の合図を送った。


「D1,D2――D3,D4! それでは戦闘を開始!」


 ユリの合図と同時に、4体が一斉に動き出したのだった。

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