仕方なく春になる

街河風火

仕方なく春になる

この部屋に桜吹雪を呼んできて散らかった物をうずめてもらう


春が来てみかんが店に無いようにあなたの声を忘れてしまう


息苦しくない安寧をください一番安いやつでいいので


草枯れて夏の記憶は眩しいが喉より下に熱があるだけ


電車賃払いたくなくて電車賃より高い煙草吸いつつ歩く


吸い殻を落としても拾わないくせに優しい人だと思われている


春色の春が見えない僕にすら空色の空は広がっている


せせらぎを聞いた時美しさよりボウフラが浮かぶ僕は醜い


地下鉄の鳩が悠然としてるのは見てくれが蝙蝠より良いから


アルバイト募集要項と同じ数否定されてく自分の歴史


泥塗れのままで売れてもいいだろう? 僕らはりんごじゃないんだからさ


たんぽぽの綿毛とか吹いて過ごしたい一人でいいさ二人でもいい


洞窟で膝を抱くように納豆をかき混ぜている朝は寂しい


死にたくない昨日の僕が朝、今日に殺され吐く断末魔アラーム


炊飯機だって動き出すほどに夜は更けたしお腹空いたし


この傷は後生大事に保管するホルマリン漬けの複雑骨折


イヤホンを片耳外す程度には綺麗なインディーズ鳥ボーカル


落書きまみれのトンネルで雨宿り雨より心を打たない芸術


この街の住居は全て四角くて尖っているからいつか刺される


春は嫌いだけど失った青い日々だけはどうにも嫌いになれない


疫病で有耶無耶のまま戻らない金網越しでしかないコート


悔しさをせめてラケットに落としたい汗も血豆も乾いてしまう


注がれた沢山の愛と同じ数自分を憎んで釣り合いを取る


山道を分け入った先にて食べる分け入らなくても青いそらまめ


既知の道歩くのに飽きて道を逸れ未知に疲れて最初に戻る


ふと一人走りたくなってよーいどん僕が一人な理由がわかる


優しさを束ねて編んだ布団より辛さ固めた枕を好む


ふらり、と入った店がやたら静か僕のせいではないと願った


一人だと指先が冷たいんだよ一人だからさ誰も知らない


綿よりも軽い言葉で逃げた後鉄より重い息を吐いてる


生肉を喰むような失望でしたきっと体を壊すのでしょう


あの、間違ってたらすいません。私と死んでくれる方ですか?


晴天に追い縋れども離される手は伸ばせるが走れないから


固形物はもう喉を通らないから土産物なら言葉がいいな


殺虫剤が虫、誘蛾灯、生き物を殺した実感なんかを殺す


春服は夏冬のもので誤魔化した二色の絵の具混ぜるみたいに


ゆっくりとガードレール曲げる植木何がそんなに気に入らないの


飴玉は良い子にしてたらもらうものだから大人は煙草を吸うの?


現代医療の恩恵を受けるたびクローン羊が僕を見つめる


太宰より覚悟も悲観も足りなくて神田川は今死ぬには浅い


零時過ぎ落ち込みたくって外に出て落ち込む理由を忘れてしまう


ハズレの飯屋を出た後の後悔が明日の希望に変わっていくの


宵闇が泣いてるように暗くてさ泣きたいのは僕の方なんだけど


完徹泥酔微睡カラオケでも音を外した君を笑える


今日よりも昔のことしか話せない今日から先は君がお願い


雨に降られるのは嫌いじゃない雨より嫌いなものが紛れる


線路沿い自分の死体を探してるもちろん誰も着いてはこない



試験管内で心をすり潰し失ったものを考え暮らす


思い出は温く優しい掘り炬燵仕舞えないからいつまでも冬

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仕方なく春になる 街河風火 @machikawa_f

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