第7話 ぷるんくんとの初対面

 赤い巨大なドラゴンは突然現れたスライムの存在に気づいても、攻撃を止めることなく、鋭利な自分の爪で僕たちを攻撃した。


 ちっこいスライムが一つ加わったところでなにも変わらないと踏んだのだろう。


 だが、


「ぷりゅ……」


 黄色いスライムは戸惑うことなく、キングレッドドラゴンを睨んでいる。


「危ない!」


 条件反射的に僕がいうも、


カーン!

  

 鋭く硬いキングレッドドラゴンの爪は僕たちを貫くことはできなかった。


 スライムの前に巨大で透明な膜が現れて、やつの爪を完全に防ぎ切っている。


 膜と爪が当たっているところからは、甲高い音が放たれ、電気みたいなものが流れている。

 

 すごい光景だ。


 レベルが違いすぎる。


 こんなの見たことない。

 

 横になったままの僕は口をぽかんと開けた。


 すると、自分の攻撃が通じないことで腹を立てたキングレッドドラゴンは鼻息を荒げて、炎を放つ。


「キイイイイイイ!!!!」


 マグマを彷彿とさせる熱い炎が僕たちを包んだ。


 だけど、やつの強力な炎も僕たちに傷を負わせることはできなかった。


 膜が僕たちを守ってくれたから。


「キイイイイイ!!!キイイイイイ!!!」


 キングレッドドラゴンは怒り狂うように地団駄を踏んだ。


 攻撃が失敗したことで怒っているのか。


 まるで理性を失ったように口からはマグマのようなものが涎のように落ちている。

 

 その瞬間、


 スライムは


 


「ぷるるるるるる……」


 数秒後、スライムはジャンプをして


「ぷるん!!」

 

 怒り狂うキングレッドドラゴンに体当たりしてきた。


 

!!



 すると、


「っ!!」

 

 凄まじい音を立てながらキングレッドドラゴンのお腹が背中まで凹み、目で追うこともできないスピードで飛ばされてゆく。



パーン!!!


 

 瞬時に壁にぶつかるキングレッドドラゴン。


 ぶつかった時の衝撃たるや、言葉で全部言い表せないほの破壊力だ。


 僕の周りに砂埃が巻き上がり、全方位に向かって壁や天井などに亀裂が生じた。


 キングレッドドラゴンは一回壁に突き刺さった後、あえなく地面に落ちてしまう。


「ああ……」


 僕は総毛立った。


 たった40センチ弱のスライムが、体当たりで20メートルほどのドラゴンを飛ばした。


 こんなのありか。


 だが、黄色いスライムは、まだあのキングレッドドラゴンを見て怒りを募らせている。


 なぜあそこまで怒っているんだろう。


「ぷりゅ……」


 怒りに身を任せるように体をブルブル震わせる黄色いスライムは体を一度振るう。


 そしたら、天井から雲のようなものが現れた。


 その雲のようなものは青く光っており、スライムもまた青く光る。


 数秒経つと、雲から稲妻が走り雷が落ちた。


ドカアアアアアアアン!!!!!!!!!!


「キイイイイイ!!!!!!!」


 想像を絶する規模の蒼い稲妻に打たれたキングレッドドラゴンは断末魔を上げ、動かなくなってしまった。


 こんな魔法は初めてみる。


 僕は重たい体を動かして立ち上がった。


 倒れたキングレッドドラゴンとちっこいスライム。


 スライムは倒れたキングレッドドラゴンの動きが完全に止まったことを見て納得したのち、後ろを振り向いた。


 僕とスライムの目が合う。


 僕は口を開いた。


「ぷるんくん……」


 すると、40センチのちっこいスライムは


 涙を流して


 

 泣き叫びながらジャンプをし


ペチャ!

  

 僕の左胸にペチャっと引っ付いた。


「んんんんんんんんん……」


 泣き続けるぷるんくん。


 6年前の出来事が蘇った。


 6年前


 9歳だったころ、僕はSSランクのダンジョンに行ったことがある。


 当時はそれがSSランクのダンジョンだったのか、Fランクのダンジョンだったのかも知らなかったけど。


 僕の幼馴染のエミリとケルと一緒に遊んでいた時の事。

 

 悪戯好きなケルに誘われ、大人たちが絶対行ってはならないと口が酸っぱくなるまで言った危険地域で遊んでいた。


『ケケケケ……ケル……やめた方がいいよ』


 昔の僕が震える声で言ってもやつは平気な様子で返した。


『大丈夫だって!きっと大人たちは隠しているんだよ!ここにいいものがあることをな!』


 ケルがほくそ笑んでいうと、ケルの隣にいたエミリがケルの裾をぎゅっと握り込んで言う。


『ケル……怖いよ』


 そんなエミリにケルは笑いながら自信に満ちた声でいう。


『大丈夫だって!何かあれば俺が守ってやるからさ!エミリもレオも!』


 僕とエミリに向けられた彼の勇敢なる視線は、僕たちに安らぎをもたらした。


 僕はケルの男らしい姿にずっと憧れを抱いていた。

 

 その時だった。


『グウウ……』


 どう考えても圧倒的に強そうなクマが現れた。


 身長は5メートルほど。


 今の僕はいろんなことを学んだため、あのクマがジャイアントベアというBランクのモンスターであることをよく知っている。


 けれど、何も知らなかったあの時はあのクマが悪魔のように見えた。


 なぜなら


『グアアアアアアアアア!!!!!!』


 咆哮して僕たちに襲い掛かったから。


『ああああ!!!』

『逃げろ!!!!』

『ケルくん!!!』


 いくらケルが男らしくても、あの巨体のジャイアントベア相手だと単なる子供でしか無かった。


 僕たちは必死に逃げた。


 だが、子供の走るスピードなどたかがしれている。


 ジャイアントベアは僕たちを追い抜こうとした。


 その瞬間、


 ジャイアントベアが僕に向かって強く手を振った。


『あっ!』


『レオ!!!』

『レオくん!!』


 僕は二人から離れてしまった。


 ジャイアントベアの攻撃をギリギリ躱した僕だが、やつは諦めていない。


 なぜ奴が僕だけを狙っているのか。


 理由は簡単だ。


 3人のうち僕を最も弱い存在だと認識したのだろう。


 獅子がキリンの親子を狩るとしよう。


 いくらライオンが強くても巨大なキリンの後ろ蹴りをもろに食らってしまったらライオンは命を失うかもしれない。


 だから、ライオンは弱い子供キリンに狙いを定めて狩りをするのだ。


 子供は弱くて狩りやすいから。


 今回の場合、そのキリンの子が僕ってわけ。


 ジャイアントベアの攻撃によってバランスが崩れた僕は必死に起き上がる。


 すると、ジャイアントベアは方向を変えて僕を見ながら


『グアアアアア!!!!!!!』


 猛突撃。


 僕は死に物狂いで危険地域の奥の方へ走って行った。


『レオ!!!!』

『レオくん!!!!』


 二人の叫び声が聞こえたが、僕は走るのに集中する。


 ここは鬱蒼とした茂みだから、木々は盾役になってくれた。


 だが、ヤツの鋭い爪の攻撃にもし当たってしまったら、一発でアウトであることは本能レベルでわかってしまう。


 僕はジャイアントベアにずっと追われた。


 十数分ほど走った。


 そしたら、小さな扉が見えてきた。


 恐怖に怯える僕の前に現れたのは錆びついた扉だった。


 僕はいそいそと中に入った。


 口から血の匂いがするほど走ったので、僕は目を瞑って佇みながら息と整える。


『はあ……はあ……』


 やっと落ち着いた僕は目を開けて周りを見渡す。


『……すごいな』


 色とりどりの光に照らされた内部が見えてきた。


 ここはもしかしてダンジョンなのだろうか。


 ダンジョンのことは冒険者になるか、魔法学院に行かないと得られない情報だから平民の自分にはわからない。


 僕は後ろを振り向いた。


 すると、ドアの隙間から入ってくる光が見えてくる。


 僕は息を飲み込んだ。


『もっと奥に入ろうか』

 

 僕は奥の方へと歩んだ。


 不思議だ。

 

 一度も来たことのない道を歩き、両親もそばにいないのに、不安な気持ちは一切ない。


 むしろ、ここにいる謎の植物、石、色とりどりの光が織りなす光景に僕は見惚れていた。


 ケルとエミリの存在を忘れてしまうほどここは美しい。


 だけど、下手に植物とか触っちゃダメだ。


 毒があるかもしれないから。

 

 食べるのは絶対ダメだ。


 食べるなら、僕のポケットにあるクッキーを食べればいい。


 ケルとエミリのために作ったものなのにな。


『なんか大きな秘密基地みたいで、悪くないかもな』


 もし、ここが家から近かったら足繁く通って、僕たち3人のための秘密基地を作ったんだろうにな。


 そんなことを心の中で口走ってみる。


 僕はここが好きになった。


 けれど、


 それと同時に、


『モオオオオオオオオ!!!!!!!!』


ドーン!


 大きな雄叫びが聞こえたのち大地を揺るがす音が近くから聞こえてきた。


『な、なんだ……向こうから大きい音したけど……』


 そう。


 向こうの小さなトンネルから音が聞こえてきたのだ。


 一体、このトンネルの向かいには何があるのだろう。


 震える手、固まった足、流れる冷や汗。


 僕の体の反応は、明らかに逃げるよう訴えているみたい。


 けれど、


 それと同時にあの向こうには何があるのか、うちなる自分が囁きかける。


 気がつけば、僕はトンネルに向かって歩いていた。


 不思議だ。


 いつも消極的で臆病な僕だが、ここだと違う自分になっている気がする。


 あの向こうには新しい世界が広がっているのではなかろうか。


 僕が一度も見たことのない素晴らしくて畏怖を感じさせるような何かがあるのではなかろうか。


 と、胸に恐怖と小さな希望を託して歩調を早め、走る。


 トンネルの終わりが見えてくる。


 息切れは気にならない。


 さあ、


 どんな光景が広がるんだ?


『……』


 目に入ったのは、




『ぷりゅん……』




 怯えている20センチほどのちっこいスライムだった。


 そしてそのスライムはどう考えても圧倒的に大きい25メートルほどの水牛っぽいモンスターの蹄によって踏んづけられる寸前だ。

 

 僕はもっとスピードを上げて


!!!!」

 

 そう叫びながら黄色いスライムを抱き抱え、


 水牛っぽいモンスターから必死に逃げ始める。


 なぜ弱々な僕がこんな大胆なことをしたのか。


 このスライムが僕よりだということを知ったからだ。


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昔助けたスライムが最強スライムになって最弱の僕にやってきたので、テイムして自由気ままにスローライフを目指します! なるとし @narutoshi

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