第42話 観光事業の恩恵
雑誌「エンカーション!」創刊号の発売以降、携帯食料部門の売り上げが好調だ。
「まったく、お前の言う通りになってるぜ? こちらとしても、特に
と、ゲラルド・オーディロイ、ギルドマスターが言った。
聞くところによると、創刊号で紹介された5つの観光スポットにはかなりの数の「観光客」が訪れており、冒険者ギルドでも出張任務が増えているという。
見習い冒険者たちはその未熟さから魔物を相手に戦って大怪我をする者や命を落とす者も結構な数いる。それは大抵の場合、魔術師や
体術や剣術というのは日々の実戦訓練で実力が上がってゆくが、魔法の熟練というのは体術や剣術に比して、日々向上するというほどの成熟速度が無いものが普通だ。
それに、なんと言っても、こう言ったいわゆる「後衛職」というのは、防御力に不安があるのが大半である。
迫りくる魔物に対してほぼ無防備状態で魔法詠唱をしないといけないわけだが、熟練の低い前衛職だと、これを守りながら敵を引き受けつつ戦うといった技術まではまだまだ身についていない場合も多くある。
そうなれば、その脅威の中にあっては、もちろん魔法詠唱に集中もできないし、高度な長い詠唱が必要な魔法は発動させることができない。結局魔法の発動が間に合わず前衛職が消耗し隊列が崩れるということが起きるわけだ。
つまり、見習い冒険者であっても、魔法熟練が高くなれば、発動速度が上がったり精度が上がったりすることで、発動機会が断然増える。結果、前衛職も余裕が生まれ、しっかりとタゲ取りやダメージディールに集中できることになる。そうなれば、後衛職に脅威が及ぶことは少なくなり、さらに高速な、もしくは高位の魔法が発動できる機会も増えてゆく――。
こうして、対魔物戦闘に安定感が生まれるということになるわけだ。おのずと生還率が上がるのは言うまでもないだろう。
「――観光スポット周辺の『現地サービス』に関しては、冒険者ギルドから公的資金を割り当てているが、その資金源として、輸送業や護衛業の収入を回すことができているから、実質的には収支は黒字になっている。最寄りの拠点までの馬車の増便によって人手が必要になっていて、冒険者がそれを担っているし、少しレベルが上がってきた見習い冒険者たちには護衛任務が割り振れる。現地でのゴミ処理によって魔術師の魔法熟練度が上がったことや、旅の疲れを癒す
と、ゲラルドはご満悦の様子だ。
「そうか。それは良かった。思いのほかうまく行っているようで何よりだよ。それで次回号の話なんだけど――」
と、エルトは本題を切り出す。
「――次のスポット紹介の『テーマ』は、『
「『こうよう』って何だよ?」
「もうすぐ秋になるだろ? そうすれば木々の葉が色づくだろう? それを言うのさ――。
「ほお、『紅葉』ねぇ。わかった。つまり、その色づく木々がよく見えるスポットを探せばいいわけだな?」
「そういうことだ。今回のスポットもこのグランエリュート近辺でこの間の5つと同じぐらいの危険度の低い場所で選定したいから、そんな候補地をたのむよ。――ところで、その後、魔玉に関する情報の方はどうだい?」
エルトはこの間の「変質ダンジョン」での一件から、魔玉に関しても情報収集をするようにゲラルドに言づけている。
もちろん、言われるまでもなく、ギルドの方としても警戒しなければならない案件だ。
ゲラルド自身、各国各地域に広がる冒険者ギルド
「――うむ。それが今のところ、そう言った兆候のあるダンジョンの情報は入ってないぜ? ルーちゃんの話を聞くとなんだか各地にぽんぽんと生成されるような気にさせられたが、そうでもないのかな?」
たしかに、ルーのいうことを真に受ければ、結構な数の「変質ダンジョン」が各地に生成されそうな気にさせられる。が、よくよく考えてみれば、もしかしたら僕たち人間で言うところの「度々」と、ルーのような「人でないもの」の「度々」は、かなりの差があるものなのかもしれない。
「――まあ、にしても、もしあんなものが頻繁に現れたら、それこそいつ世界が滅んでもって話になりかねんから、ギルドとしても、見つからないなら見つからないほうがいいって話なんだがな?」
――気を抜かずに引き続き警戒と情報収集は怠らないように働きかけ続けるさ。
と、ゲラルドも応じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます