第34話 魔玉
4人がギルド
今回の「変質ダンジョン」の生成についてはいろいろと考えねばならないことが多い。
ゲラルドとしては、このような「変質ダンジョン」に対して今後どのように対応していけばよいかを、各地の冒険者ギルドマスター宛てに緊急に報告を上げなければならないだろう。
ゲラルドは、今日の出来事を整理する必要もあるため、エルトとルーの二人にも、話を聞きたいと申し出た。
そうして今、執務室にはゲラルド、エルト、ルー、そしてヘルメの4人がテーブルを挟んでソファに腰かけているというところだ。
「――で、だ。こういったダンジョンは今後も世界各地に出現する可能性というのはどうなんだい? ルーちゃん」
と、ゲラルドが切り出した。
「――魔玉の影響がいろいろな形で現れるとすれば、今回の様なダンジョンがまた出現したり、あるいは、これまでに発見されてきたダンジョンが「変質」したりする可能性は、充分に考えられるじゃろうの」
と、ルーが答える。
「――そもそも、その魔玉ってのは何なんだよ? 僕もいろいろと魔法に関しては調べてきたけど、そんな話は聞いたことが無いぞ?」
とは、エルト。
「私も初耳です。あれはいったいどのようなものなのですか?」
と聞いたのはヘルメだ。
魔玉――。
ここからはルーの話の要約だ。
魔玉とは、世界にそもそも存在していた魔素の結晶体だという。魔素が何らかの影響(基本的には自然界の影響だが)を受けた結果、途轍もなく高密度に集束し小さな石の形になったものということだ。
太古の昔、ルグドアはこの世界に
それからは世界各地を飛び回り(そもそも彼女は竜族である)、地方地方の魔族の首魁を討伐しつつ、この「魔玉」の収集を続けた。
その結果、世界に一定の安寧がもたらされ、魔族の統制がほぼ終わったのだという。
「ほぼ、というのは、完全に終わったというわけではないという意味だけど、それはどうして?」
とエルトが聞く。
「魔素というのはあらゆるところに漂っておる、自然の生成物じゃ。空気と同じようにこの世界のどこにも存在しておる。たまに、悪行をはたらく人類どももおるじゃろう? あれは魔素に影響を受けた魂魄を持つ者たちじゃ。ああなってしまえば、魔法での浄化はほぼ不可能じゃ。魂魄に浸透した魔素を完全に除去するには数年数十年単位で、魔素から完全に隔離する必要があるのじゃ」
とルーが答える。
だが、ここまでの話が、「完全に終わったというわけではない」の答えには直結していないことをエルトは理解している。
なので、口を挟まず、もう少しルーの話を聞き続けることにした。
「つまりじゃ、そんな、大気中に散らばった魔素をまるで「吸引機」のように吸って回るわけにもいかんじゃろう? それに、大気中に漂っとる魔素の影響など、人類どもで充分に対応できる程度のものじゃ。ダンジョンもその魔素によって生成されるものの一つじゃが、人類の戦闘力で充分に対抗できる程度のものしか生成されぬ。そこまで「掃除」してやる義理はわしにはない」
と、ルーが言った。
「吸引機」というのはエルトが考案した魔法具の一つで、店内のフロアを掃除するために使う器具のことだ。いわゆる「魔力を使った掃除機」である。
「――えっと、すいません。ここまでのお話で、少し確認させていただきたいのですが、ルーさん(?)は、いったい何者なのですか?」
とはヘルメだ。
「え? ゲラルド、話してなかったの?」
「あ、悪い、言いそびれてたわ――。ルーちゃんは、魔王ルグドアなんだよ、ヘルメ」
と、エルトに迫られ、ゲラルドはこれまたすらりと言い放つ。
「え? え? どういうことですか? でも、魔王ルグドアは勇者パーティが……。え? えええ!!?」
ヘルメがさすがに驚いて口をあんぐりと開けてしまう。
このいつも冷静な書記官がこうまで正体を失うのを始めて見たエルトは、このことがどれほどの重大事であるか、
そして
「あ! ああ、大丈夫、大丈夫です! 今は、『魔王ルグドア』ほどのものではありませんから――」
「嬢ちゃん、よろしくの。元『魔王ルグドア』の、ルー・グドーラじゃ。みんなにはルーちゃんと呼んでもらっとる。ああ、今はこんな話し方じゃが、エルトの店では「15歳」で通しておるから、よろしくのぅ」
ヘルメは、かたや、勇者パーティの大魔術師であり、ルグドアを討伐した本当の人物といわれる『漆黒の魔術師』エルトシャン・ウェル・ハイレンドと、そして、かたや「魔族の王」と恐れられた竜魔王ルグドアという、歴史上の人物二人が、今自分の眼前に、並んで座って談笑しているという光景を
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