第25話 ルーの素性と陳列棚
「リーリャさん、品出し終わりました! 次は何をしたらいいですか? あ、お菓子売り場の補充してもいいですか?」
そう問いかけるこの少女の名前はルー・グドーラだ。
オーナーを訪ねてきたと思ったら、そのままこの店で働くことになった女の子で、すこし変わっている。
どこが変わっているかというと、表現しづらいのだが、一つだけ確信していることがある。
この子、絶対私より年上だと思うんだけど――。
見た目的には人間の15、6歳程度に見える(本人も15歳だと公言していた)が、最初に見かけたときの雰囲気はもっと落ち着きがあって年長者らしい振る舞いと言葉遣いだった。
それがオーナーとの面談の直後から、明らかに「設定」が変更されたという感じだ。
「ああ、はい。じゃあ、お願いしようかな――」
と、リーリャは即答する。
「はい! 行ってきます! (レジが)並んだら呼んでください!」
と、ルーは答えると、たたたた、とバックヤードへ消えていった。
(う~ん。もう、完全に15歳になりきってるって感じね。まあ、この世界で年齢なんてさほど意味も無いものだから、別に本人の好きなように生きればいいんだけど……)
と、リーリャは思っている。
この世界には数種類の種族がいるとされている。
人間、エルフ、ドワーフの3大種族――3大とは言っても、個体数では圧倒的に人間が多く、次いで、ドワーフ、ホビットと続く。エルフは個体数では少数派であるが、どうしてこの3大に数えられるのかというとそれは圧倒的な寿命の長さによるものだ。その長寿ゆえ重職に就くものも多く、知識や知恵も非常に豊かである――が主たる住人であるが、ドワーフやエルフは長寿の部類に入り、人間の数倍数十倍生きるとも言われている。
そんな世界においては「年齢」など、大したものさしにはならない。
それに種族によって成長速度も若干変わる。
特に長寿の部類に入る種族程、成長速度は遅い傾向があるのだ。
しかし、気になるのはオーナーとの関係だ。オーナーは「知り合い」だと言っていた。が、最初に出会った時の反応はそんな感じではなかった。それが、数分後にはこの店で働くことになったという。どう考えても、明らかに何か隠していると思って間違いない。
(それになんと言っても、あの『魔力量』――。控えめに言っても大魔術師クラスの魔力量だわ……。オーナーの魔力量も相当なものだけど、それに勝るとも劣らないなんて――)
まさしく、冒険者であれば第一級の魔術師になれるほどだ。
そのことについてリーリャは面接の折、鑑定魔法の効果を披露するときにエルトに伝えてある。
エルトは、ただ、
「それが見えるのでしたら、合格です。ぜひよろしくお願いします」
と言っただけだった。
その後、「呪文書」作成に手を貸していると知った時には、やはり、元々は魔術師だったのだと確定したわけだが、どうして冒険者を続けなかったのかについては、ついぞここまで質問することはなかった。
(このルーちゃんも、もしかしたらオーナーの冒険者時代と何か関係が――?)
と、リーリャはそんなことを考えていた。
「リーリャさん、この『ペコペコ飴』なんですが、最近よく売れている気がするんですよ? これって味違いとかあるんでしょうか?」
と、ルーが唐突に聞いてくる。
リーリャはちょっと待ってねと言いながら、
ぱらぱらとお菓子の項目を開いてゆくと、そこに「ペコペコ飴」の欄を見つける。
仕様書を見る限り、全部で3種類の味が存在していることがわかる。うちの店に並んでいるのは1種類だけだ。
「ルーちゃん、見て、ほかにも2種類あるみたいよ?」
というリーリャの声に、ルーも反応して寄ってくると、
「あ、ほんとうだ! ねえリーリャさん、このあと二つも発注していいですか? 3つ並べてそれなりに
と、応じる。
商品の販売棚に、何列同じものを横に並べるかの数を「フェイス数」と、この店では呼んでいる。
基本的には、一品目一列が基本であるが、力を入れて販売をする際には、一品目一棚や、一品目一段など、お客様の目に留まりやすいようにわざと大袈裟に展開陳列をする。また、特設棚などを設けて、店の入り口付近に展開することもできる。
ルーが言っているのはそこまで広く売り場を取るまでではないものの、3種を並べて、「ペコペコ飴」のフェイス数が増えることで、今まで以上に販売が伸びるのではないかということだろう。
まあ、「ペコペコ飴」が例えば今の3倍売れたとしても、店の利益がとんでもなく上がるわけではない。
ないのだが、従業員意識として、今以上にどうやったら売れるかを考えて実践することはとても大事なことである。
リーリャは、
「じゃあ、取り敢えず2ロットずつ他の2種も入れて、並べてみたらどう?」
と、ルーに促した。
「え? いいんですか!? やったぁ! じゃあ、発注しておきますね!」
と、ルーが目をキラキラと輝かせて返してきたものだから、思わず可愛くなってしまって、ぎゅぅと抱きしめてやりたい感情に駆られる。
――まあ、いいか。この子がこうして楽しそうにしてるのなら、素性の詮索なんて今は大した問題じゃない。
リーリャはそう自身の気持ちに整理をつけて、ルーが嬉しそうに発注台帳に記入するのを見ていた。
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