第26話 トップパーティ壊滅


(クソッ! 何なんだこのダンジョンは!? 明かに様子がおかしいじゃないか――)


 ロビィは仲間たちに指示を出した。

「フェイ、周辺警戒を怠るな! なんか、ヤバいぞ、ここ――。ギリー、いつでも攻撃魔法のぶっ放せるように準備を。ガーラン、突然の襲撃があるかもしれねぇ、盾は構えたままで進めよ?」


 そう言った、刹那だった。


「――う、うわぁ! な、なんなんだ、コイツはぁ! ぎゃああ……!」


 ロビィのすぐ左手から叫び声が響いた。


 慌ててロビィはすぐ左を振り返るが、さっきまでそこに居たはずのフェイの姿が見えない。


「フェイ! どうした!? どこにいる!?」

と、声を張り上げるが、フェイからの応答がない。


「ロビィ……、ここはダメだ……引き返そう」

そう、ガーランが言った。


「フェイが居ないんだ! 見捨てていくつもりか!?」

と、ロビィが応じる。


「フェイは戻ってこないよ……。アイツはもう、魔物に食われてしまったんだ――。僕、見てしまったんだ……。ああ、なんでこんなところにあんなやつが――」

とギリーがロビィの後ろから声を上げる。


 ロビィは振り返り、ギリーに問いかけようとした。

「魔物を見たのか? 俺には見えなかったぞ? ――!? ギリー?」

そう言いながら振り返ったそこにはもう誰もいなかった。


「――、ギリー!? どこだ? どこにいる!? ――クソッ! ガーラン! ギリーも消えた! ガーラン!?」

目の前に盾を構えているガーランに声をかけたが、ガーランは体を硬直させたまま全く身動みじろぎ一つしていない。


「――ロビィ……、コイツは無理だ……。俺も、ここまでだ。ロビィ……、。楽しかったぜ? 少しだけ時間を作ってやる。逃げろ、ロビィ……、にげろぉおおお!」

そう言い残すとガーランは、盾を構えて急に前方へと走り出した。


 ロビィはわけもわからず、け出した。

(ガーランが。ガーランが! 何なんだ? 何を見たって言うんだ? なにが無理なんだ? ってなんなんだ!?)


 とにかく逃げるんだ――。

 と、ロビィは自分に言い聞かせた。

 ガーランが最後にくれたチャンスなんだろう。アイツが「逃げろ」なんてこれまでに一度も言った試しがないんだ。俺は、俺は生き延びて、このダンジョンのことをしらせなければならない! こんな場所が、こんなところにあるなんて……。


 ロビィは脇目も振らず駆け続けた――。



******



 ゲラルドは、ヘルメからの報告を聞きながら、じっと目を閉じている。


「――ということです。ロビィ・カノックは今、手当てを受けさせています。幸い、命に別状は無さそうです。しかし、ガーラン・ローデン、ギリアス・ヒュージ、フェイノルト・リッカの三名は『MIA』となるでしょう」


 久しぶりに聞くその用語にゲラルドは胸に痛みが走った。


 MIA――。

 ミッション・イン・アクション。作戦行動中行方不明という意味だ。つまり、「おそらくは死亡しているだろう」という処理手続きをることになるということだ。


「そうか――。分かった。とにかく、そのダンジョンの周辺には誰も近づかせないように注意喚起をしてくれ。それから、シルバー級の冒険者を数名集めてくれ。せめて、周辺警戒はせねばなるまい」

と、ゲラルドはヘルメに指示をした。


「わかりました。――それで、ダンジョン内部には誰を差し向けますか?」

と、ヘルメが問い返した。


「――そうだなぁ。今ウチにいる冒険者の中でトップクラスのパーティがやられたんだ。現状では誰も対応できんだろうな……」

と、ゲラルドが大きく息を吐く。


 ――俺が出るしか、無いよなぁ……。


と、ゲラルドは考えを巡らせていた。


「マスター、私は準備ができていますので、になったらお声をかけてください。それでは、私は手続きを進めて参ります。失礼します」

そう言い残したヘルメが執務室から辞するのを、片手を上げて軽く応じて送り出す。


 しかし、そんな危険なダンジョンなど、これまでに発見の報告はなかった。

 このグランエリュートのすぐそばで、新しいダンジョンが発見されたことなんて、ゲラルドが知る限り、数十年ぶりのことだ。しかも、前回発見されたのは、小型のダンジョンで階層も2階層ぐらいまでしかない初級冒険者でも問題なく探索できる程度のものだった。


 しかし今回のものは様相が違う。

 階層はわかっているだけで10階層はあるという。ロビィたちのパーティがそこまで到達してやられたからだ。そして、途中で出会った魔物どもも、そこそこの強さがあったという。ロビィはシルバー級冒険者で、現在このグランエリュート地域に属する冒険者パーティの中でも指折りの冒険者パーティだった。

 そのロビィの話によると、そのパーティがほぼ一瞬で壊滅させられていることになるのだ。


(ふぅ……、ヘルメはああ言ってくれているが、俺とヘルメだけで潜るのは少し危険かもしれんなぁ――。まあ、やってやれないことはないだろうが、ヘルメまで失うわけにはいかんからな――)


 と、ゲラルドは思案していたが、やはり、答えは一つしかない。

 いや、この話を聞いた時から答えはすでに出ていたのだ。


(ああ~、めんどくせぇなぁ~。さてと、は何にするか……)


 そう思いながら、執務机から立ち上がると、コートラックの外套がいとうを掴み、それを羽織る。

 日はまだ沈み始めたばかりだ。今から向かってもアイツもまだ店にいるだろう。


 ゲラルドは重い足を引きるようにして執務室を出た。

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