第18話 小旅行の目的地
翌朝――。
リーリャはエルトと連れ立って歩いていた。
宿に荷物を置いて、ある程度軽装で目的地へ向かう。
レシルアから続くなだらかな山道を1時間ほどは歩いただろうか、冒険者ギルドの情報が確かならそろそろのはずと、エルトはさっき言っていたのだが……。
「木々の香りが気持ちいいですね、オーナー。周辺に魔物や魔獣などの気配はないようですし――。小動物の気配は少しありますが、人を襲うほどのものはいないようですね」
と、リーリャはエルトに話しかけてみた。
「ええ、本当に。う~ん、そろそろのはずなんだけどなぁ――。あ、リーリャさん、水の音が聞こえませんか?」
とエルトが聞き返してくる。
リーリャは少し耳を澄ませてみる。
確かに水音がかすかに聞こえている。断続的に続く、どどどど、という音だ。
「――確かに聞こえますね。これって……」
「ええ、それが目的地なんですよ。とは言ってもこの山道じゃあ木しか見えなくて他に何も――」
「オーナー、どうやら
と、リーリャは道の先を指さして言った。
よく見ると山道の先がすこし視界が開けているように見えたのだ。どうだろうか、あと200メートルほどと言ったところか。
「あ、本当だ。やっぱり間違ってなかったんだ。よかったよかった」
「この音――。滝? ですか?」
「ええ、実は今考えている新しい企画で、ちょっとね……。まあ、見てからにしましょう」
と、エルトは言うと少し歩様を速める。
リーリャも遅れないようにとエルトに続いた。
その場所に近づくにつれ、徐々に水音は大きくなっていき、最後にはかなり大きな音になった。
どどどど、という水が降り注ぐ音が周囲の木々に木霊して心地よい調和音が胸を打つ。これは間違いなく滝の音だ。
そうしてその開けた場所に到達したとき、リーリャはその景観に圧倒された。
目の前の滝壺に降り注ぐ圧倒的な水量――。
遥か頭上から白く太い糸、いや、布のように岸壁に張り付き落ちている。
すごくきれいだ――。
「わぁ、なんて素晴らしい景色なんでしょう――」
と、思わず
「ほう、これは――。なかなかのものですね。滝と言えば、ナーラの滝には昔行ったことがあるんですが、まあ、あそこまでとは行かないまでも、これはこれで充分見ごたえがありますね」
と、エルトも返してくる。
「ナーラの滝」ですって?
たしか世界5大滝の一つで、その落差は世界一と言われている滝のことだと記憶している。場所は、このグランエリュートから遥か北の国だったはずだが、そんな場所に行ったことがある人になどリーリャはこれまで出会ったことが無い。
まさか聞き違いということは無いと思うけど……。
「オーナー、ナーラの滝に行ったことがあるんですか? どうしてそんな遠くに――」
「ああ、結構旅行好きでしてね。グランエリュートでお店を始めるまでは世界を巡り歩いていたんですよ。あ、それより、リーリャさんに診てもらいたいのは、その滝壺です。もう少し近づいてみましょう」
そう言うとエルトは滝壺へと歩み寄って行った。
なんだかうまくはぐらかされた気がするが、リーリャも追及する機会をうまく外され、仕方なくエルトに続く。
エルトが言うには、その滝壺周辺に、人に危険が及ぶようなものは無いかを「鑑定」してほしいというのだ。
リーリャは言われた通り、滝周辺を
植物や滝壺のなかの生命体、水質、周辺の魔物などの気配――。
一通り
「大丈夫、ですね。特に人に危険なものはありません。水質のほうも若干鉱物が含まれているようですが人体に影響を与えるほどではないです。というより――」
リーリャには確信があった。そしてそれを確かめるために滝壺から続く川辺に近づくと、その水を手ですくって口に運んだ。
「――! おいしい~! やっぱり、思った通りだわ。冷たくて少し甘みが感じられますよ?」
と、エルトに告げる。
「へえ、じゃあ僕も――。本当だ、少し甘い感じがしますね」
「おそらく水に含まれている鉱物のせいだと思います。ですが、さっきも言いましたけど、人体に影響がある程の量ではありません。このぐらいなら、毎日飲んでも大丈夫です」
「よおし、『合格』だな。まずはここで決まりだ。」
と、エルトが言った。
「オーナー、そろそろ話してくれてもいいんじゃないですか?」
と、リーリャもさすがにここで切り出さなければまた聞きそびれてしまうと思って聞いた。
「ああ、すいません。じつは……」
そう言うと、エルトは今冒険者ギルドにグランエリュート周辺の「観光スポット」候補の情報を集めてもらっていると話し始めた。
その話によると、エルトはこの間「書籍売り場」の話をしていた時の私の話を真に受けて、本気で「観光ガイド」を作成できないかと考えていたようだ。
それで、グランエリュート周辺に「記事」になるような「観光スポット」があるかの情報を集めてもらい、これが一般人が訪れても問題ない程度の安全性があることが証明されれば、それを紹介する『雑誌』を作るつもりでいると打ち明けてくれた。
「え? まさかあの時行くところができたって店を飛び出して行った先って、ギルドだったんですか?」
と、エルトに問いかける。
「ええ、情報集めに冒険者ギルド程都合のいい場所は無いですからね。さすがに冒険者たちの情報量の豊富さには脱帽ですよ。僕が知らないこんな場所がまだまだでてくるかもしれませんね」
そう言って
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