第14話 万引き発生
「オーナー、すいません。少しお話があるのですが……」
リーリャはややかしこまって、エルトに声をかけた。
エルトは、そんなリーリャの様子をやや不審げに見たようで、少し表情に猜疑感が現れている。
「申し訳ございません。実は、大変悲しいことですが、「万引き」が起きたようです――」
と、リーリャは心から申し訳なく思い、謝罪した。
店を預かる店長であるリーリャにとってはこれを防げなかったことは大失態でもある。
「そうですか。よく気づきましたね?」
と、エルトが返してくる。つづけて、
「どうしてそれがわかったのですか?」
と、問い返してきた。
実は――、とリーリャはおそらくそうだろうというところに辿り着いた経緯を話し始める。
ミミがお菓子売り場の発注業務をしている時だ。
チョコレート菓子の一つの数が不足していることに気がついた。発注台帳には6つあるはずの商品が5つしかない。
どこか周辺に紛れ込んだのだろうかとあたりを探してみるが、やはり、見つからない。
仕方なく、リーリャにその件を伝え、従業員皆で店内を隈なく探して回ったが、やはり見当たらなかった。
「――それで、『
と、リーリャは正直に伝えた。
「リーリャさん――」
と、エルトは深刻な声色で切り出した。
いつもと違う声色にリーリャには緊張感が走った。さすがに失態を犯してしまったのだから、叱られたり責められても文句は言えない、と考えたからだ。
が、次の言葉はリーリャが思ってもいなかった言葉だった。
「――ありがとうございます。記録映像を見てと仰いましたけど、その現場を特定するのには時間も根気も必要だったでしょう。「ボンバーチョコバー」なんて小さい商品が減ったのを映像で確認するのはなかなか骨が折れる仕事です。本当によく見つけましたね。お疲れ様です」
そういってエルトは軽く頭を下げたのだった。
これにはさすがにリーリャは困惑した。
叱責されて当然だと緊張していたのに、まさか感謝の言葉を告げられるなんて――。
リーリャは一瞬言葉に詰まったが、あわててエルトに応じた。
「い、いえ、とんでもございません! そのぐらい、大したことではないです。それより、今回の失態について従業員のみんなとよく話し合い、対策を考えなければと考えております」
と、告げた。
「そうですね。その件についてはみんなでよく考えてみてください。それで? その犯人というのは?」
「あ、はい。映像をご覧いただくのが一番早いと思いましたので、すぐに確認できるようセットしてあります。――どうぞ、ご覧になってください」
リーリャがその問題の映像をモニターで、再生を始める。
そしてその映像を見たエルトの様子を
リーリャはすでにその映像を確認済みなので、犯人に心当たりがある。しかし、さすがにリーリャもまさかと思ったほど意外な人物であった。
「……これは――。……そうですか――。残念なことですが、事実は事実です。万引きは窃盗という犯罪ですからね。しっかりと対応しなければなりません」
と、エルトが少し落胆した声で言った。
「どう、なさるおつもりですか? オーナー」
「そうですね――。直接お話しするのがいいでしょう。おそらく近いうちにまた来ますよ。その時お引止めして事情を説明することにしましょう」
「衛兵隊には……?」
「う~ん、事の次第に寄りますが、お話ししてからでも遅くはないでしょう」
「わかりました。では、次おいでになったら、お知らせいたします」
と、リーリャはエルトに一礼すると事務所を出て店内へ戻った。
万引き――と言うのは俗語である。
日本においては「窃盗」という名の犯罪行為であるが、なぜか「窃盗犯」とは言わずに「万引き犯」という言葉で片付けられている。
この言葉がこの犯罪行為を助長しているとエルトは思っているのだが、どうしてかこの言葉を使いたがる傾向にあるのが世の風潮と言うものらしい。あっちの世界でも、当の警察自身が「万引き、万引き」と連呼するありさまで、報道でも「窃盗」と言わずに「万引き」という言葉を使ってニュースで流していた。
そういう風潮だからなおのこと、未成年や少年犯罪の入り口になっているところがあるのだろうと、エルトは思っている。要は、ゲーム感覚で、あるいは、度胸試しのような形で、横行しているというわけだ。
事実、コンビニエンスストアにおける「万引き被害額」はかなりのウエイトを占めている。どうして防げないのか?
答えは簡単だ。防ごうとしていないからだ。
現代日本におけるコンビニの店舗形態、いや、おそらくこれはコンビニに限らず、どこの小売店でも同じなのだろうが、基本的に「万引き」させないようなつくりにはなっていない。
誰もが簡単に商品を手に取れるし、自前の袋やバッグも持ち込める。昨今であれば、レジ袋すらなくなってしまったわけだから、「マイバッグ」の持ち込みを断れない事情も出て来ているだろう。
こういった状況にコンビニ側は「防護柵」を何も持っていないのが実情だ。それに、そんなことに時間をかけている時間的資金的余裕もない。
結果、各店オーナーは「あきらめて」、「必要経費」として計算に入れるという方法を取った、というわけだ。
おそらくのところ、今回のリーリャさんのように、かなりの時間を費やして犯人を特定したり、また来店した時にどう対応するかなどということを従業員たちで共有したりしている店舗など、現代日本においてはどちらかといえば少数なのではないかとさえ思える。
さて、このエピソードは次項へと続く――。
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