第6話 ルグドア来たる?


「たのも~う!」


 ソイツは突然訪れた。


「はい? えっと、すいません。お客さま、どうかなさいましたか?」


 いきなり店内に響き渡った声に、リーリャが応対する。


「こちらは、エルトと言うものが営んでおる店じゃと聞いておるが、相違ないか?」

と、その客の少女が問いかける。


「はい、エルト・レンドは当店のオーナーでございますが――」

と、リーリャ。


「ふむ。ルグドアが参ったと伝えてくれんか?」

「えっと、どちらのルグドアさまで?」

のルグドアじゃ」

「マオージョ? ですか?」

「ああ、じゃ」


 リーリャはその少女をいぶかしく思った。が、オーナーを訪ねてきているとあれば、さすがに無碍むげに扱うこともできない。見たところ、人間なら15~16歳と見える少女で、オーナーの年齢からみれば、「妹君」と言っても差し支えないぐらいだろうか?

 でも、それなら、名前でなく、「妹だ」というはずだ。わざわざと名前を名乗るということは、古いお知り合いなのかもしれない。


「わかりました。ですが、今オーナーは外しておりまして、そのうち戻ると思いますが、店内でお待ちになりますか?」

と、リーリャ。実はオーナーのエルトは今、配送屋さんとの打ち合わせで店を外している。

「おそらく予定では、16時ごろにお戻りになると聞いておりますが――」


「じゅうろくじ、じゃな? ふむ。あと、少しというところか。いいじゃろう、それでは待たせてもらおう」

と少女は言うと、店内を巡回し始めた。


 確かに16時まではあと十数分といったところだ。店内にはイートインコーナーも完備されている為、そちらでお待ちいただいても構わないだろう。


 取り敢えずのところ、リーリャは店内で淹れたティーオレを用意すると、その少女に声をかけ、イートインコーナーへ案内した。


「おっほう! こりゃ、うまい茶じゃな。甘くていい香りがする――そちが淹れたのかぇ?」

「え? あ、いえ、店内で販売しているものですよ。エウルク地方原産の紅茶にミルクをお入れしたものです」

「エウルクじゃと? ほう、あんな辺境の地にこんなものがあったのじゃな。そうか、しらなんだな――」

「はい。当店のオーナーが諸国を旅している時に見つけた商材らしいです。今ではそのエウルク地方のジャジャ村に当店の専用茶葉工場を建てて、産地直送で送ってもらっています。そもそもはその地方でしか知られていなかったお茶なんですよ?」

などと、説明をしているところに、エルトが戻ってきた。




 エルトが店内に入るとすぐ、

「あっ、オーナー、お疲れ様です。お客様がおいでですよ?」

とリーリャから声をかけられた。


 声が聞こえてきたイートインコーナーの方を向くと、そこに店長のリーリャさんと一人の少女が目に入る。


「ああ、リーリャさん。ただいま。僕にお客? そちらのかたですか?」

「はい。え? お知り合いじゃないんですか?」

 というやり取りをしている時におもむろにソイツが叫び声を上げようとした。


「おー! ! おまえ、――」

(――っ! シャウト――!)


 そこまで言いかけたソイツはその先の言葉を繋げなかった。エルトが魔法「口つぐみシャウト」を発動したのだ。さすがにその先を言わせるのはまずい。コイツ、今、僕のことを「」と呼んだ。僕のことを「」と呼ぶのは、僕の過去のことを知っているものだけだ。


「ん? んん? おまえ、――」

「しっこ?」

と、再び口にしようとするが、その言葉は魔法によって『禁じられている』。リーリャさんが、言葉の意味がわからず反復しようとするが、もちろんそれだけではその言葉が『魔術師』だとはわからないだろう。


「あ、ああ! どうしたんだ!? お前、こんなところまで来て? さすがに驚いたぞ? リーリャさん、コイツは僕の知り合いに間違いない。前に会ってから随分ずいぶんってたから一瞬思い出せなかったよ。――ほら、こっちにこいよ? 中で話そう……。リーリャさん、こっちは大丈夫です。すいません、お仕事に戻っていただいてかまわないですよ?」

と、一気にまくし立てながら、エルトはそいつの背を押して事務所バックルームの方へといざなう。


 いまだにと何ごとかを言いたそうにしているを、何とか事務所バックルームに押し込めると、エルトは慌てて扉をしめた。これで、外にこちらの声が漏れることはない。


「エルじゃ、本当にエルじゃ。しっこ――」

「ちょ、ちょっとまて! 取り敢えず落ち着いてくれ、お前、一体誰なんだよ?」

「わしは、ルグドアじゃ、のルグドアじゃ」

のルグドア?」

「そうじゃ、おまえのせいでわしはこんな体になってしもうたんじゃ、なんとかせぃ! もとにもどせ!」

「何のことを言ってるんだ? 僕は全く覚えがないぞ?」

「当たり前じゃ! わしはこんななりじゃなかったのじゃからの!」


「ん? おまえ、ルグドアって言ったか?」

「じゃからさっきからそう言っておるじゃろうが!」

「ルグドア――? ん? マオージョ?」

「ま、お、う、じょ、じゃ」

「マオージョ……、まおうじょ……、魔王城!? ルグドア! もしかしてお前、魔王城のルグドア、か!?」

「じゃから何度もそう申しておる! わしはのルグドア、おまえたち4勇者によってこんな体にされた、魔王じゃ!」


 なんてことだ――。

 確かに最後、僕が使った魔法は「封印シーリング」の魔法だ。そして、その効果で、魔王は灰となって空に消えていったと思っていたのだが――。


「おまえの『封印シーリング』のせいで、こんななりになったのじゃ。戻るにはお前の力が必要じゃ――!」


 どうやら厄介な来客が来てしまったらしい。

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