第5話 エルトのコンビニ
コンビニエンスストアの営業は24時間年中無休だ。
通常の会社であれば、9時間拘束8時間労働が基本だろうか。
交代制の仕事でも長くても12時間拘束だろうが、もちろん休憩や仮眠があるのが通常だ。
はっきり言って、常軌を逸している。
24時間の営業をカバーするにはそれなりの人員が必要になる。人は寝なければ生きていけないからだ。そして、コンビニエンスストアの主力はパートやアルバイトの時間労働者だ。彼らの一日の労働時間は長くても8時間、短いものなら3時間程度である。
仮に、毎時2人の体制を維持するとしても、最低で24時間×2でのべ48時間分の人員が必要になる。
これを6時間勤務のパートやアルバイトで補うとすれば、一日当たりの必要人数は48÷6で、8人も必要になるわけだ。
もちろんその人たち全員が毎日働けるわけではない。週3日や週2日という人もいるだろう。
仮に平均週3日勤務とすれば、28日換算で28÷3×2、つまり、19人弱の人数が必要となる。
この人手不足の世の中で、これだけの従業員数を集めるだけでも相当無理がある。ましてや、コンビニの時給は基本的に最低賃金クラスだ。
その割に仕事量は多く、必要な知識も幅が広い。昔でこそ、それ程知識を要しない職種と言われていたが、最近では専門的な知識や、様々な機械や設備の取り扱い、サービスの多角化によるオペレーションマニュアルの増加など、覚えることは山ほどある。それはもう、短時間労働者が簡単に習得できるレベルの内容ではない。
つまり、「戦力」になるまで相当の時間を要するのもまた事実だ。
こうなると、全て、経営者にしわ寄せが来ることになる。
人員不足に困らずオーナーが店に入らなくて済む店舗など、おそらく全国でも決して多くはないだろう。
もちろん、この体制を作り上げることこそがコンビニ経営において何よりも重要なことではある。
新規参入する新オーナーたちもこのことはよく理解しているはずだ。
――はずなのだが。
実際のところはとても難しいと言わざるを得ない。
何よりもまず、単純に「数」が足らない。
そして、労働条件や環境もいいとは言えない。
コンビニエンスストアのフランチャイズ契約を継続更新するオーナーが少ないのは、単純な理由による。
年齢である。
つまり、体力がもたないのだ――。
エルトは自身の「過去」のことを振り返っていた。
結局自分も、その体力の限界を感じて更新を断念したのだ。
コンビニの業態自体にはおそらく可能性は非常に高いものがある。もちろん、売上も利益も全く問題ないレベルで推移する。つまり、続けられればずっと利益を生み出し続けることができると言っても過言ではない。
単純に売上が問題となって経営難に至る店舗など、おそらく年間に数件程度しか生まれないとさえ思える。
続けることさえできれば――だ。
ところが24時間営業では、主体者(=店舗経営者)一人の力でどうにかなるものではない。これは物理的な理由によるものだ。決して精神的な理由ではない。
たとえ、充分な人員が確保できるとしても、「店は生きてる間ずっと営業し続けている」のだ。寝てようが休んでようが、店は営業している。
つまり、不測の事態が起きれば、寝ている間でも店に向かわなければならない。
(だから、24時間営業なんて絶対にやらない――)
この世界におけるコンビニの形」は、これから作り上げていくことになるだろう。しかし、今後どれだけ環境がかわっても、それだけは絶対にしないと決意している。
人というのは、食べて、寝て、休んで、遊んで、笑って生きるものだ。それでなければ「人」とはもう言えない。
機械ですら電源が切れれば「停止」するし、故障すれば「停止」する。
もし人が同じように動けば、その「停止」は「死」と同義だ。
(24時間営業なんて、人間の所業じゃない――)
と、エルトは考えている。
確かに冒険者エルトシャンだった時は、数日間寝ないで移動したりとか、交代で休憩したりとかしたこともかなりあった。
が、それはいつか必ず終わるものだ。しかも、「数日」であって、「十数年」ではない。
それに、この世界には「魔法」がある。
治癒魔法を施せば、体力はある程度回復するし、眠たくて動けないなどということはまず起こらない。
起こらないはずなのに、その数日後、宿屋のベッドにもぐりこめた瞬間から、数時間気を失って翌日の昼過ぎまで眠り続けるなんてことは普通に起こるのだ。
(どの世界に行っても、どんな種族であっても、それだけは生物普遍の原理なんだろう――)
だから、この世界ではあっちの「いいとこ
現状、エルトの始めた「コンビニ」の営業時間は、朝8時から夜8時までだ。この営業時間は冒険者ギルドの受付時間とほぼ同じである。
この「1号店」の主要客層は「冒険者」だと設定している。そこに、街中立地ということで、町人需要も見込んだ形を考えているというわけだ。
この街の商店は、夕方から営業を開始する酒場系の商店以外は、多少の前後はあれども、ほぼすべてこの時間帯を中心としている。
こういうところはしっかりと
(開いててよかった、なんてのは運営側の拝金主義を包み隠す為の言い訳に過ぎない。その時間にはその時間の生活習慣というものがある。その環境を変えることは持続可能性を下げるだけだ――)
継続して運営できる強固な商店形態を作り上げれば、自ずと利益は付いてくる。そしてそれは開店から
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