第3話 勇者パーティ引退します!
「やったか――!」
「ええ、やったわ……」
「おお――! 魔王を倒したぞぉ!」
勇者と女賢者と戦士が吠えた。
「ふぅ、ようやく終わったか。じゃ、僕はこれで――」
エルトシャンが素っ気なく言い放つ。
「いやいやいや! まだだし! 国王に報告行かないとだから!」
勇者が即座に吠える。
「そうだよ、エル。国王に報告行くまでが魔王討伐だからね?」
と、女賢者が言った。
「そうだぞ、エル。4人そろって行かないと褒美がもらえんからな。抜け駆けさせるわけにはいかないんだぞ」
と戦士も釘をさす。
「なんだよそれ、もういいじゃん、僕はここで消えたことにしてくれていいから、その方が僕の計画も進めやすいし――」
とエルトシャンが眉を寄せる。
たった今、魔王ルグドアを討伐し、ようやくこの冒険も終わりを告げる。
勇者と女賢者と戦士の3人は根っからの冒険者で、魔王討伐の暁には、異世界へ転移して新たな世界を救うのだと息巻いていた。
「でも、本当に行かないの? 異世界。転移門の先にはまだ見ぬ世界が広がってて、珍しいものや美しい景色や美味しいものがあるって噂だぜ?」
――いかない。と、素っ気なく応える、エルトシャン。
「エルがいないと、火力が落ちるからいてほしいんだけどなぁ~」
――お前が居れば充分。と、女賢者の泣き落としにも全く動じない。だって、賢者だよ? 治癒も魔法も充分使いこなせるんだから、僕が居なくても大丈夫に決まってる。
「お、俺はぁ、そのぅ、なんだ、そ、そうだな……」
――別に無理に言わなくていい。と、戦士が言葉を選んでるうちに即座に突っ込みを入れる。
「仕方がないから、王城までは一緒に帰るよ。本当は面倒だからここで死んだことにでもしてくれれば一番有り難いんだけど、まあここまで一緒にやってきた義理もあるし、みんなを送るまでは一緒にいるよ」
とエルトシャンも渋々折れる。
「そうか――。そうだな、人それぞれ夢はある。初めのころからの約束だったもんな。残念だが、俺もエルの門出を祝うとするよ」
と勇者もついに諦めた。
「じゃあ、凱旋だ! 最後の冒険、4人で楽しみながら帰ろう!」
と勇者が言った。
******
王城へ帰りつくと王から褒美がもたらされた。
勇者と女賢者と戦士は『転移門』の使用を願い出た。
この世界の脅威が取り除かれた今、勇者たちをここに留めおく理由が無いと悟った国王は、その門の使用を許可し、3人を異世界へと送り出した。
エルトシャンもまた3人が門の向こうへと旅立つのを見送った。
「――それで? そなたは何を望む?」
国王がエルトシャンに問いかける。
「英雄の称号を辞退したく存じます。私の願いはただ一つ、ただの町人としての生活です」
「なんと! 栄誉も富もいらぬと申すか? 『英雄』の称号があればこの先一切生活に困ることはない地位と領地が与えられるというのに、それを辞退して町人になると――」
「はい。漆黒の魔術師エルトシャン・ウェル・ハイレンドは勇者たちと共に異世界へと旅立ちました。これより私はただの町人、エルト・レンドとして天寿を全う致したく思います」
「なるほどのう。まあ、貴族のしがらみが肌に合わないというものも確かにいる。――わかった。その件、この国王レイモンド・エリュトウスの名において了解した。そなたはこれ以降、ただの町人エルト・レンドとして生きるがよい。して、そなたは何をしようとしておるのだ?」
僕は――。
******
「よし! ここに決めた! 不動産屋さん、この物件に決めるよ。えっと、支払いは即金で払うから、一割引きでいいね?」
「ぜ、全額ですか? え、ええ、それなら問題はありませんが、それでも結構お高い買い物になりますよ?」
「大丈夫、お金なら問題ない」
「そうですか? じゃあ、それで構いませんが……。ああ、支払期日は5日後でお願いいたします。その日にこちらへ取りに伺います」
「ありがとう。そうしてくれると助かるよ」
そういうやり取りが終わると不動産屋さんは帰っていった。
ついに――。
ついに!
ついに、ついに、ついにぃ~~~!
念願の「店舗持ち」になったぞ!
さあ、ここからようやく僕の夢が歩み出すのだ!
この世界に来てからと言うもの、初めに勇者と
だが、だがしかし!
それはそれなりに恩恵もあった。勇者パーティに入っていたおかげで、『軍資金』がたんまりと貯まった。おかげで、国王の褒美を受け取らずに済んだことも大きい。
国王から褒美を受けたとあれば、今後も何かにつけていろいろと要求されるかもしれなかったからだ。
その点、アイツらはうまくやりやがった。異世界に転移してしまえば、今後国王が介入することはほぼ皆無だ。
しかし、この世界で生きようと決めた僕にはそういうしがらみが一番面倒なんだ。取り敢えずのところ、褒美を受け取らなかったことで少しは縁が薄くなるだろう。
苦節5年。ようやくスタートラインに立った。
おかげで年齢も22歳になってしまった。この世界で商売を始めるには少し遅咲きかもしれないが、死ぬまでにはまだまだ時間はたっぷりある。
前世で志半ばで閉店した無念をここで晴らすのだ。
「僕は、この世界で初のコンビニオーナーになる!」
――と、ここまでが冒頭までのいきさつであった。
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