Chapter3:夜王と呼ばれし男

Different 7 カイト【心傷】

 パイルバンカーの衝撃力で、粉々に砕かれる禍津日。

 クロガネはコックピットに狙いを定めていた。パイロットである男は死んでいる。

 あの杭をまともに食らったら肉体は押しつぶされて……。


(押しつぶされて……)


 瞬間、頭のなかで白い閃光が広がる。


 浮かび上がったのは、実験体の頃の記憶。

 痛くてつらい日々が嫌で、ずっと泣いていた。

 父さんにやめてと訴えても、「人類の未来のためだ」と言って聞き入れてくれない。

 母さんに助けを求めても、「ごめんね」と俺に謝るだけで助けてくれなかった。


 俺が十二歳の誕生日を迎えたとき、それは起きた。

 その日の実験はいままでより過酷で、より強力な電流を流された。

 痛くて、苦しくて、泣き喚いても、父さんは実験を止めてくれない。


(誰か……誰でもいいから……俺を助けて!!)


 心のなかで助けを求めた瞬間、突然部屋が大きく揺れ、俺は簡易ベッドから転がり落ちた。

 まだ痺れている体を無理やり起こし、ゆっくりと顔を上げる。

 かすむ目線の先に映ったのは、鋼鉄の塊。目を凝らして注意深く見ると、それは人の手の形に似ていた。

 ふと、その指の隙間からはみ出ている人の足に気づく。見慣れたズボンと革靴で、俺はすぐ父さんだとわかった。


『父さ……』


 俺は呼ぶのを止める。

 なぜなら、血溜まりが出来ていたからだ。

 父さんの死に愕然がくぜんとなるなか、母さんの悲鳴が響く。

 振り返れば、母さんが目を大きく見開いて立っていた。


『あなた……なんで……』


 母さんは俺と死んだ父さんを交互に見たあと、デスクに置かれた拳銃を手にする。

 泣きそうな顔で俺を見つめたまま、銃口を自分のこめかみへあてた。


『……ごめんね、カイト。助けなくて……ごめんね……』


 俺に謝った母さんは拳銃の引き金をひき、自らの命を絶った。

 母さんの死を目の当たりにした俺は泣き叫び、ショックのあまり意識を失った。

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