Different 5 カイト【抵抗】

 クロガネのサポートを終え、俺は少しの間昼寝をしていた。

 ハッキングや戦闘時のヴィルトゥエルの調整をすると急な睡魔に襲われる。脳がルーターになっているせいか、疲労が倍で押し寄せてくる。寝落ちなんて日常茶飯事だ。

 けたたましいインターホンの音で目が覚める。


(鍵、忘れたのか?)


 いまだに頭がぼーっとするが、俺はベッドから降りて玄関へ向かう。数ヶ所に付けられた錠前を上げ、ドアを開けた。


「おかえり、クロ……」


 俺は言葉を止める。目の前にいる男がクロガネではなかったからだ。

 男は不気味な笑みを浮かべ、口を開く。


「久しぶりだな、カイト・シュミット」


 聞き覚えのある声に、俺の背筋は凍りつく。


「その声……YAMATO企業の基地で俺と戦った……」

「覚えてくれて嬉しいなァ〜。あのとき、おまえと戦ったYAMATO企業の兵士だよ」


 男の狂気にみなぎった眼。

 俺は恐怖のあまり後退あとずさる。

 男は笑みを浮かべたまま、ゆるゆるとした足取りで俺に近づいてきた。


「俺なァ、おまえに復讐するために世界中探し回ってたんだぜ」

「……復讐?」

「しらばっくれんじゃねぇぞ!!」


 ニヤニヤ笑っていた男が豹変。急に声を荒らげ、一気に詰め寄ってきた。

 髪を荒々しくつかまれ、背後にあったベッドに押し倒される。抵抗するも、相手は俺の体にのしかかり、両手首を押さえつけてきた。

 身動きを封じられた俺を見下ろしながら、男は喚き散らす。


「おまえのせいで隊長はおかしくなって、そして死んだ。おまえのせいで仲間は死んだ。おまえのせいで俺の人生はめちゃくちゃになった。おまえのせいでなァッ!! カイト・シュミットォッ!!」


 つかまれた手首の骨がミシミシ鳴る。折られてしまうんじゃないか、と思うと、体が石のように強張ってしまう。

 ふと、男が俺の顔をじっと見ていることに気づく。

 男の両眼と唇が不気味な弧を描く。

 嫌になるくらい見慣れてしまった表情。

 頭のなかで「危険だ」という警鐘が鳴る。

 逃げろ、と思っても、体は動かない。

 逃げたらのを身を持って知っているからだ。

 男は俺のスラックスと下着を乱暴にぎ、シャツを胸元まで引き上げる。

 男の指と舌が肌を這う。気持ち悪い感覚に吐き気を覚えた。

 指と舌が下へ移動し、下半身の部分を執拗に弄られる。声を出したくなくて、必死に唇を噛んだ。


「――ッ」


 抵抗出来ない自分が悔しくて涙がこぼれる。


(クロガネみたいに強かったら……)


 クロガネの姿が頭のなかに浮かぶ。

 皮の厚い、カサついた指。軍人の手。

 嫌いな手なのに、俺の顔に触れたあいつの手は暖かった。

 クロガネ以外に触れてほしくない。

 この手はいやだ。

 いやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!


「いやだ!!」


 俺は叫んで、男の顔をおもいっきり蹴飛ばした。

 不意打ちを食らった男はベッドから落ちる。

 乱れた服を急いで整え、俺は玄関へ走った。

 ドアノブをにぎるも、背後から髪をつかまれ、強い力で引かれる。


「このクソ野郎がッ‼」


 罵声とともに、頭を床にたたきつけられる。


「隊長に抱かれたように、おとなしく抱かれろ!!」


 何度もたたきつけられ、意識が薄れていく。

 俺、死ぬのかな。


「てめぇは一生俺の物だ‼」


 男が笑う。

 下卑げびた笑顔を浮かべながら、俺の体に手を伸ばす。

 男の手が触れる寸前、突然相手が部屋の奥へ吹っ飛んだ。


 ガシャアアアアアン!!


 物が崩れる音が響くなか、聞き慣れた低音の声が耳に入った。


「俺の依頼主になにしてんだ? 強姦野郎」

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