Different 1 カイト 【観察】

 カエルレウムはねちっこくてしつこい。

 昨晩からずっと、休むことなく俺を抱いている。

 疲れたから「いい加減やめろ」と文句を言おうとしたが、ふと監視カメラに視線を移す。

 じっと見つめていれば、“だれか”の視線とかち合った。


「……んッ、なあ……侵入者が……っ……来てるぞッ」


 揺さぶられながら、俺はカエルレウムに伝える。

 侵入者、と聞いて、やっと相手が動きを止めた。


「警報機は鳴っていませんが?」

「この施設、セキュリティーガバガバだろ。裏口から侵入して、ダクトを通って監視室に入ったかもな」

「外には警備パンツァーを配置していました。侵入者はそれらを突破してきた、と」

「相手は世界政府かもしれない」


 俺が煽るように言えば、カエルレウムは眉間にしわを寄せる。


「仮に侵入者がロードナイトであれば厄介です。早急に排除します」


 カエルレウムは俺から離れ、身なりを整える。


「すぐ戻ってきます。そしたら続きをしましょう。カイト」


 カエルレウムは俺の額にキスをしてから、寝室をあとにした。

 ひとりになった俺は、部屋に備え付けられたシャワールームへ向かう。

 ベタベタになった体を洗い流し、さっぱりしてひと息つく。


「……さて」


 床に散らばった服を身に着け、椅子に座る。

 テーブルに置かれたシリアルバーを食べながら、タブレットの電源を入れた。


「あいつ、どこにいるんだ?」


 施設のシステムにハッキングし、監視モニターを出す。

 さっきの男はこの部屋がある居住区画のとなり――研究区画の廊下を歩いていた。

 俺は男の服装と容姿を注視する。

 服装はアウトドア系のラフな恰好に、企業のロゴが一切入っていない黒のジャケットを着ている。

 容姿はアジア系の男らしい顔立ちで、長身かつ筋肉質で体格がでかい。

 ウェーブのかかった長い黒髪は、頭頂部で団子状にまとめて結われていた。


(企業のロゴが入っていないジャケット、ラフな恰好。こいつ以外の侵入者がいない、となると……)


 この男は金で雇われた傭兵ということか。依頼人は世界政府か、別の企業か……。


(まあ、どっちにしても好都合だ)


 こいつを利用して、此処から脱出しよう。

 ヴァイラスの情報はすべて手に入れた。

 戦闘に役立つものはなかったが、医療機関に売れるデータがあった。しばらくの生活は大丈夫だろう。

 ふと、男が映っているモニターとは別のモニターに生体機動兵器バイオ・メカノイドが通り過ぎる。

 一瞬だが、あの気味の悪い姿を見てしまった俺は舌打ちをした。


「カエルレウムが防衛プログラムを起動させたか」


 此処で男が排除されてしまえば、脱出のチャンスを失ってしまう。

 俺は施設の防災システムへハッキング。防火扉を作動させた。

 あとはあっちでどうにかするだろう。

 俺はのんきに思いながら、缶コーヒーを飲む。


「……にが」


 苦くて飲めるものではなかった。

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