カイト・シュミット

 カイトはカエルレウムはねちっこさに辟易へきえきしていた。昨晩からずっと休むことなく抱いているからだ。

 疲れたカイトが「いい加減やめろ」と文句を言おうとした矢先、ふと監視カメラに視線を移す。じっと見つめていれば、“だれか”の視線とかち合った。


「……んッ、なあ……侵入者が……っ……来てるぞッ」


 カイトは揺さぶられながらカエルレウムに知らせる。侵入者、と聞いて、ようやく相手が動きを止めた。


「警報機は鳴っていませんが?」

「この施設、セキュリティーガバガバだろ。裏口から侵入して、ダクトを通って監視室に入ったかもな」

「外には警備パンツァーを配置していました。侵入者はそれらを突破してきた、と」

「相手は世界政府かもしれない」


 カイトが煽るように言えば、カエルレウムは眉間にしわを寄せる。


「仮に侵入者がロードナイトであれば厄介です。早急に排除します」


 カエルレウムはカイトから離れ、身なりを整える。


「すぐ戻ってきます。そしたら続きをしましょう。カイト」


 カエルレウムはカイトの額にくちづけをすると、寝室をあとにした。

 ひとりになったカイトは部屋に備え付けられたシャワールームへ向かう。ベタベタになった体を洗い流し、さっぱりしてひと息つく。


「……さて」


 カイトは床に散らばった服を身に着け、椅子に座る。テーブルに置かれたシリアルバーを食べながら、タブレットの電源を入れた。


「あいつ、どこにいるんだ?」


 カイトは施設のシステムにハッキングし、監視モニターを出す。


(さっきの男はこの部屋がある居住区画のとなり――研究区画の廊下を歩いていた)


 カイトはモニターに映しだされた男の服装と風貌を注視する。

 男の服装はアウトドア系のラフな恰好に、企業のロゴが一切入っていない黒のジャケットを着ている。容姿はアジア系の雄々しい顔立ちで、長身かつ筋肉質で体格がでかい。ウェーブのかかった長い黒髪は、頭頂部で団子状にまとめて結われていた。


(企業のロゴが入っていないジャケット、ラフな恰好。こいつ以外の侵入者がいない、となると……)


 相手は金で雇われた傭兵だと、カイトは感づく。


(依頼人は世界政府か、別の企業か……。まあ、どっちにしても好都合だ)


 男を利用して此処から脱出する。そうカイトは決断した。

 

(想定外で捕まったが、ヴァイラスの情報はすべて手に入れた。戦闘に役立つものはなかったが、医療機関に売れるデータがあった。しばらくの生活は大丈夫だろう)


 ふとカイトは男が映っているモニターとは別のモニターに生体機動兵器バイオ・メカノイドが通過したことに気づく。一瞬だが、あの気味の悪い姿を見てしまったカイトは舌打ちをする。


「カエルレウムが防衛プログラムを起動させたか」


 此処で男が排除されてしまえば、脱出の機会を失ってしまう。

 カイトは施設の防災システムへハッキング。防火扉を作動させた。あとは男がどうにかするだろう。呑気(のんき)にそう思いながら缶コーヒーを飲む。


「……にが」


 カイトはコーヒーの苦さに顔をしかめつつ、男が来るまでベッドでひと眠りすることにした。

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