第3話

「お久しぶりです。シャンデラ様。」


「フォト、久しぶりね。今はメイド長しているのね。」


「はい、シャンデラ様もあれから活躍しているそうで、この辺境の地にも名は届いています。」


 ブブのメイド長を務めているダークエルフのフォトは前の職場ではシャンデラの副メイド長を務めていた。

 二人とも歳があまり離れていない事もあって主従を超えた絆を紡いでいたのである。

 シャンデラの元から離れた今でも文通を欠かさない仲であり、お互いに近況を話していた。

 勿論、守秘義務の範囲での文通である。

 今回、シャンデラがブブの元に訪れたのも、フォトの手紙で興味を持ったからである。


「それで私の弟はどうなの?」


 それは元気とかではなく、優秀かどうかと言う質問であった。

 シャンデラとしては自身が当主の座を狙っている上で新しく生まれたライバルかもしれない存在を少なからず気になってはいたのである。


「とても優秀です。吸血鬼の能力もサキュバスの能力も本能的に使いこなしています。混血種ハーフとして強化や統合されている能力に関しては私共では何も教える事が出来ない状態であります。」


「かなり優秀ですね。天才として有名であるシャンデラ様でもそこまで規格外ではありませんね。」


「・・・・うるさいわよ。カーペ。流石、最高傑作と言うところね。」


 シャンデラのメイド長であるカーペがシャンデラを揶揄う様に言った。

 むすっとしながらシャンデラはカーペを黙らした。

 魔王によって製作された最高傑作であるブブは他の混血種ハーフも似たような状態だった。

 互いの種の天才と同等か、それ以上の才を持って生まれた最高傑作は災害と言って良いほどに成長するのだ。

 シャンデラもそんなことは分かっていた為、今更嫉妬などするつもりはなかった。


「シャンデラ様、着きました。・・・ブブさま、シャンデラ様がいらっしゃいました。」


 近況の話をしているといつの間にか目的地に着いていた。

 フォトはブブの自室に着くとノックをした。


「ふぁ〜はぃって良いよ。」


「失礼します。」


「なっ!」


 シャンデラ達の目を釘付けにしたのはブブの姿だった。

 一つの歪みもない真球を人型にした様な体型、そして、傾国の美ではない。己の美的感覚をぶち壊してこれこそが美しさだと叩き込む様な魅力が襲いかかって来ていた。

 正に壊国の美である。


「なに、ぼけーとしているの?さっさと入って。」


「っ!初めましてね、ブブ。私はジェラート・ドラキュラが長女シャンデラよ!」


「うっるさ。」


 シャンデラは魅了されかけた頭を頬を叩くことで吹き飛ばして目覚めさしていた。

 魔族の二大美形種族である吸血鬼とサキュバスの混血種ハーフだけはある。太っていてもその美しさを損なうどころか新たな美を生み出していた。

 気合いを込めて挨拶をしたシャンデラの声がうるさくてブブは耳を押さえて嫌がっていた。


「ブブ、はじめまして、シャン姉。」


「シャン姉・・・まぁ、良いわ。」


 兄弟が多く皆が当主の座を虎視眈々と狙っている為、兄弟仲は良くなかった。その中でもシャンデラは当主候補筆頭という事もあって嫉妬の対象になっていた。

 だから、こんなに親しげに姉呼ばわりしてくれる事が新鮮で戸惑い照れていた。


「あの冷酷無慈悲のシャンデラ様がっ・・・照れているっ!」


「何か?」


「いえっ!なんでもありません!!」


「だから、うるさい。」


 戦場で敵を無表情に無情に殺戮する吸血姫が末っ子に照れているのが信じられてなかった配下が驚いていると静かに睨んだシャンデラにビビりまくっていた。


「それにしても美味しそう。」


「むっ、ダメよ。兄弟でそんなことはいけないわ。」


 シャンデラの首筋を見ながら涎を垂らしているブブにまるで近親相姦を迫られている様な雰囲気でシャンデラは照れながら首筋を手で隠していた。

 それを見たブブは聞いていた通りのメンヘン娘だなと思っていた。


「・・・それはそれとしてこの森って枯れ果ててない?生物の気配が明らかに少ないわ。」


「?そんな事が分かるんだ。お腹すいたから、食いまくっていたらこの屋敷の周りに近づく餌がいなくなった。多分、森の奥に隠れているだけ。探せば見つかる。こんな感じにしたら。」


「それは・・・」


 ブブはそう言うと肉体を森に住む猪に姿を一瞬に変化されていた。

 肉体変化は吸血鬼の能力の中でもメジャーなものだった。

 でも、ブブのその姿は異質だった。

 シャンデラはブブの変化は自身の見てやってきた変化とは全くと違うと本能で感じとっていた。


「まさか、完全に変化させたの?」


「あぁ、そういえば他の吸血鬼は出来ないんだっけ?」


 正確にはブブの様な変身が出来ない訳ではない。

 ただ、吸血鬼が他の種や姿に変身すると人形の様な綺麗さになるのだ。

 つまり、作り物感が凄い為、猪すら騙す事も出来ないレベル代物なのである。

 だから、自画像の様に鏡を使って自然に見えるように調整を繰り返すのだ。

 それだけやっても身長や体重、歩行などで違和感を感じさせる事があり、努力に見合った成果が得られない能力として死にスキルとなっていた。


「おれはその生物の全てを吸収する。そこから変身に必要な情報がほぼ100%手に入るんだ。それを使えばこの様に自然な姿に変身もできるし、全てを吸収しなくても2回吸収したら充分なのよ。」


「え?フォトが二人?」


 ブブは猪の姿から一瞬にしてフォトへと姿に変えていた。

 あまりの速さにこの場にいる者の大半がいつ変身したのか認識する事ができなかった。

 変身されたフォト自身もまるで鏡を見ているのかと混乱するくらい違和感のないブブの変身に戦慄していた。

 姿だけじゃない。話し方から一つ一つの動作まで全てがフォトへ変わっていた。


「こんな感じかな。」


「脱帽ね。諜報をやったら貴方の右に出るものはこの世界に存在しないわ。」


「そう。それでシャン姉が来たのは俺に会うだけじゃないでしょう。」


「えぇ、|ブブ。貴方は当主になりたい?」


 ブブがライバルかどうかを確認しに来たのである。

 シャンデラに嘘は通じない。

 この可愛い丸々としたブブと敵対するのは気が滅入るがそれもこの子の魅力からであり吸血鬼として魅力に屈するほど柔な心をシャンデラは持っていなかった。


「いや、俺の食事の邪魔をしない限り狙う気はないよ。なんなら手伝おうか?」


「そう。ありがたい申し出だけど私の自身の手で奪い取るから気持ち良いのよ。」


 シャンデラの頬を染め、快感を思い出しながら震えていた。

 他者から奪い手に入れるその快感こそシャンデラの最高の楽しみなのだ。


「ガンバ。」


 自分も楽しみな食事を邪魔されるのは嫌いだから。

 気にしないことにした。

 人それぞれである。

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