第122話:森の長
イツキとナナは、お昼にはパチンコ屋に併設されているカフェテリアで年越しそばを食べ、たまに外に出ては冷たい空気を吸いつつ火照った体を覚まし、あとはひたすらに"森物語"を楽しんだ。
そうこうしているうちにあっという間に日は傾き、時刻は早くも19:00になろうとしていた時だった。
「おっ!? イツキじゃねーかよ! まさか、お前がこんなとこに来てるとはな!」
後ろから聞こえた声にイツキとナナが振り返ると、そこにはポケットに手を突っ込んだイケているおっさんが立っていた。
180cmくらいだろうか、背は高く痩せ型。髪はやや長く、黒のスキニーに黒のシャツを羽織っていた。綺麗に磨かれた高そうな革靴を履き、シルバーのネックレスやら指輪やらをつけていた。これだけでも十分イケている部類に入るだろうが、極め付けに体からダンディーな香水の匂いがいやらしくない程度にふわっとやさしく香った。
「父さん……!」
その人物が誰なのかを把握したイツキは驚いた。そう、イツキの父であり"森物語"の生みの親のひとりである"一ノ宮 ガク"、その人だった。
「えっ! イツキのお父さんっ……!?」
イツキの様子を見たナナは、イツキを上回る驚きを見せた。
「どれどれ〜、やれてるか〜!?」
イツキとナナのリアクションをよそに、ガクは2人のデータパネルをぽちぽちといじり、台の挙動を確認した。
「ほぉ〜、まぁまぁってとこだな! お嬢ちゃんの方が、いまんとこはちょっといい挙動してっかな!」
「どうだ、イツキ? Final、おもしれーだろっ?」
「うん! すごくおもしろいよ! 制作、おつかれさま!」
イツキはパチンコを打つ手を止めて、嬉しそうにガクに感想を伝えた。
「そーだろ? そーだろ? やっぱ最後だからよ、特に気合入れて、みんなで"あーでもこーでもねー"って言いながら一所懸命つくったんだ! こうしてよ、たっくさんの人が楽しそうに遊んでくれてるのを見ると、本当に頑張ってよかったって思うよ。作ってる時も楽しいんだけど、やっぱこの瞬間も最高に嬉しいわな…。」
本当に楽しそうな顔のイツキに"おもしろい!"と言われたガクは、心底嬉しそうで、それでいて誇らしげだった。
「ところで、となりの可愛い子ちゃんはお前の彼女か?笑」
「ち、ちがうよ…!」
ニヤニヤしているガクに、イツキは速攻で訂正を入れた。
「そうか、そうだよな!笑 お前にはちと可愛すぎだ!笑」
「あのっ! はじめましてっ! わたし、"三ツ橋 ナナ"と言いますっ! "森物語"の大ファンなんですっ!」
ナナはすっと立ち上がってガクに挨拶をすると、自分の台に置いてあるもちぐまのぬいぐるみを指さした。
「そうか! そうか! そりゃ、嬉しいなぁ! キミみたいに若い女子も楽しんでくれてるなんて、すごい嬉しいよ! ありがとう!」
ガクは砕けた口調ながらも丁寧にナナにお礼を言った。
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