第121話:背中で楽しさを伝える人たち

 オールナイト営業期は黙っていてもたくさんの人がくるので、パチンコ台の釘はやや厳しめかなという印象を受けたイツキであったが、台の調子は悪くなかった。


 イツキもナナも爆発的な連チャンこそ引かないものの、ちょこちょこした当たりや数連程度を当てることで、投資をあまり膨らまさずに"森物語 the Final"を遊ぶことができていた。


 開店から少し時間が経過したころには、すでにパチンコの島も賑わいだし、気づけばほとんどの台に人が座っている状況となっていた。ほぼ全台が稼働している店内はまさにお祭り状態。その熱気は凄まじいものであった。


 全国にパチンコを楽しんでいる人がこんなにいるという目の前の事実が、パチンコの道を志したイツキにとっては、非常に嬉しく、また心強いことでもあった。


「ねーねー!! イツキっ!! いまお手洗いついでに店内を探検したんだけど、いつも動画で見ている人がたくさんいたっ!! まじ、やばいっ! テンアゲなんですけどっ!」


 年イチの注目イベントということもあって、お店にはパチンコ界の有名人の姿もあった。主に動画配信サービスで実践動画を投稿している演者さんやパチンコ雑誌の有名ライターたちだ。


「まじですか! ぼくも見に行きます!」


 同じく実践動画を見るのが好きなイツキはナナと一緒に席を立った。有名演者さんはそもそも見た目が個性的であったり、撮影機材があったりするので、混んでいる店内でも見つけるのは容易である。


「ナナさん、あそこ! サンゲームの"てっつさん"と"あかいさん"ですよ!」


「ほんとだっ! オールナイトであのメイク…、大丈夫かなっ!?笑」


「わっ! イツキっ! あそこにいるの"硬直島田さん"だよっ! ステッカーもらっちゃおっと!!」


「ほんとですね! 相変わらずめっちゃ喋ってますけど、ハマりにハマって今日も硬直気味ですね……。笑」


「あーっ、"ゆるっきーさん"に"キズナランさん"もいるじゃん! てかっ、2人とも可愛すぎるんですけどっ!」


 イツキとナナはいつも動画で見ている演者さんを生で見ることができ大興奮だ。


 演者さんによって、実践する台やスタイルはもちろんそれぞれ異なる。ただ、どの人もパチンコが大好きなのが一目瞭然だった。


 台と向き合っているので顔こそあまり見えないのだが、パチンコ・スロットを打っているその背中が、パチンコの"楽しさ"と"愛"を語っているのだ。そして、その楽しさを多くの人に伝えたいという想いもきっとある程度は同じなのだろう。


(みんなパチンコが大好きなんだな。世間から色々言われることもあるかもしれないけど、その"好き"を自信を持って発信してるんだな。)


 ナナは心の中でそう感じると、思わずその場で立ち止まってしまった。


 そう。パチンコ・スロットを打ちたいと思った時、誰もがすぐ打てるとは限らない。初めてで打ち方がわからない人もいれば、用事や体調の都合で打てない人だっている。そういった背景を考えると、パチンコ実践動画が果たしている役割は決して小さくない。


 以前からパチンコ実践動画の制作側に興味があったナナだが、実際に彼ら彼女らの真剣な実践現場を生で見ることで、じーんと心打たれるものがあった。


 自席に戻ったナナは、パチンコを楽しみながらも、改めて自分が望むパチンコとの関わり方について色々と考えを巡らせはじめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る