第118話:これまでとこれから

「はいっ!」


 高速に乗って間も無くした時、ナナが再び元気に手をあげた。


「見て、イツキ! あそこの車! ナンバーが753!!」


 数字が回転するタイプのスロットでは、"753"や"634"といった語呂合わせができる出目でめは非常にアツいとされているのだ。


「あ! ほんとですね! いま、高速に入った勢いで完全に油断してました…! 確定役の出目でナナさん1点ですね!」


 ナナは助手席で小さくガッツポーズをしてみせた。


 2人きりの車内ゲーム。勝ったところでお金がもらえるわけでもないし、誰かに褒められるわけでもない。でも、ナナのこうしたゲームを本気で楽しめるところが、イツキは本当に好きだった。


 12月30日ということもあってか、夜の高速はとても空いていた。オレンジ色のランプがものすごいスピードで後ろに過ぎ去ってゆく。


 三重に向かって確実に進んでいると感じる一方で、いつまでもナナと同じ景色を見ながら走っていたいともイツキは思った。旅とは不思議なもので、目的地と同じくらい道中も愛おしいものだ。


 絶賛寝不足のナナは、高速に入ったら眠くなるかなと思っていたが、一向に眠気はこず、車内にかかるパチンコボーナス曲を口ずさんでいた。


「でもさーっ、うっかり石をぶつけっちゃったイツキとまさかこうしてオールナイトにまで行くことになるなんて、やっぱまじで不思議っ! だってあの時、私が石を蹴らなかったら、この瞬間ってないわけでしょっ!? 人生何が起こるかわかんないっていうけど、がちでそうだよねっ!」


「ナナさん、前もその話してませんでしたっけ!?笑」


「あれ、そうだっけ!?笑」


「だって、まじですごいんだもんっ! すごくないっ!? それこそ、どんな確率だよって! …それにね、イツキと出会えて本当によかったって、、そう思ってるんだよっ。」


 ナナはイツキの方を向くわけでもなく、前を向いたままだった。急にドキッとしたことを言われたイツキは目だけを動かして、ナナの顔を少しでも見ようとしたが、車内は暗く、表情まではよく分からなかった。


「だからね、この不思議な出会いの話は、これからも何かある度にきっとまた話しちゃうよーっ!! 飽きずに何度でも付き合ってよねっ!笑」


 急に始まったナナの話によって、決して車内は暑くないのにハンドルを握る手が汗ばむくらいイツキの心拍数は上昇していた。


 自分とナナとの間にこれからも"何か"が起こるのかもしれない、続いてゆく"未来"があるんだと考えると、イツキはすぐにでもナナのために何かをしてあげたい、そういった存在になりたいという気持ちになった。


「あ、はい! もちろんです! ……えっと、、あっ、料金所です!」


 何か気の利いたこと言って自分の気持ちも伝えたい、と言葉を探しているイツキが見つけたのは、言葉ではなく料金所だった。


「はいっ!」


 料金所を通過した瞬間、イツキが手をあげた。


「わたしがいい話してたとこなのに、なにを見つけたわけっ!?笑」


「いまの料金所のスタッフさん! 普通は無言だったり、"お気をつけて"なんですけど。すっごい笑顔で"良い旅を!"って言ってくれました! ぼくには赤文字に見えました。間違いありません、あの料金所は設定入ってます!笑」


「あははっ! うけるっ!笑 わたしも素敵な笑顔の方だなとは思った! じゃー、プレミアのセリフということで1点! えーっと、3対2でイツキがリードかーっ! こう道が暗いと演出見つけるのむずいっ!!」


 ナナが少し焦りをみせたところで、車が白線に少し乗り上げた。「おっと!」とイツキがハンドルを修正したときには、すでにナナの手は高らかに上がっていた。


「はい! ナナさんどうぞ! シートが震える台はまだないけど、いまのは間違いなくバイブですっ! 大当たり濃厚かとっ!!」


「ですね…!笑 シートバイブで1点!」


「うしししっ!! やったー!これで同点!!」


 楽しくしていると時間が過ぎるのも早く、2人を乗せた車もだいぶ三重に近づいてきていた。


「結構近くまできたし、この辺で一旦休もっか? 夜のサービスエリアって、なんかエモくて良きじゃんっ?」


「ですね! そうしましょう!」


 イツキはウィンカーを出し、程よい大きさのサービスエリアに車を入れた。


 とりあえず深夜ラジオでも流したくなるようなサービスエリアには、トラックの運ちゃんを始め、幾人かが寒そうにしながらも、思い思いの時間を過ごしていた。


 イツキは車から出ると、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込みながら、寒空に両手を突き上げて伸びをした。ナナもイツキの真似をして、大きく深呼吸をする。2人が見上げた明かりの少ない夜空は、雲が切れて星がきらきらと輝いていた。


「雨が降るかもという天気予報でしたが、代わりに星が降りそうですね。」


 深夜テンションのせいか、思いのほか綺麗だった夜空のせいか。イツキにしてはロマンチックな一言だった。

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