第119話:人生はパチンコみたい?
「はいっ!」
イツキは、てっきり「なにロマンチストみたいなこと言ってんのっ!うけるっ!」とナナに笑われると思っていたが、ナナはにやにやしながら手をあげていた。
「天気予報は雨なのに、実際は晴れという矛盾演出っ!」
「うわっ! それは気づきませんでした! たしかにこれは矛盾ですね。」
画面上の演出と実際のリールの出目が合っていないといった矛盾演出はパチンコでもスロットでも激アツの部類に入るのだ。ナナは白い息を吐きながら、うしっ!とガッツポーズをキメた。
「では、三重も近いですし、ここで何かご馳走しますよ!」
イツキは参ったという表情をしながら、お尻のポケットから財布を取り出した。
「やったやったーっ!! イツキ、見て見てーっ! あそこにおでんの屋台があるよっ! 寒いし、あれにしよっ!!」
ナナは極寒のパーキングエリアで一際温かそうなオレンジの光りを放つ屋台を指さすと、るんるんと早足で歩き出した。
出汁の匂いを含んだ湯気が勢いよく上がる屋台で、2人は好きなタネをテイクアウトし車に戻る。一瞬の間に車内は寒くなっていたが、熱いおでんを食べるにはそれがまたちょうどよい。味の染み込んだ具は、冷えた体によく染みるようだった。
おでんを食べ終わった2人はシートを倒し、長旅で疲れた体を休めることにした。深夜のサービスエリアは静かで、車内には他の車のヘッドライトの光がたまに入るくらいだ。
「日常の中にも意外とたくさんの激アツ演出があるんですね。」
イツキは車の天井をぼーっと眺めながら、ナナとの演出ゲームを思い出した。
「だねっ! わたしも、あんなにたくさん見つかるとは思わなかったよっ!」
ナナもイツキと同様に車の天井を眺めていた。
「てかっ、ひょっとすると人生って結構パチンコに似てるのかもよっ!」
「と、言いますと?」
「えっと…、人生はさ、毎日が派手な1日かというと決してそういうわけじゃない。基本的には大きく変わらない毎日を淡々と粛々と進めている。でも、そんな一見同じに見える毎日の中に、実は小さな違いや違和感が転がっていて、そういったものにちゃんと気づいて、拾い集めることができれば、その分だけ人生は色鮮やかに発展していくよね。そして、どんなに満足のいく人生を生きていたとしても、時には隣の芝生が青く見えてしまうことだってある。自分が日々頑張っていることが上手くいくかどうか、それはその人の努力もあるけど、運の要素もある。でも、最後にいい人生だったかを決めるのは、自分でありその尺度も自由。多分お金の量だけでは、人生の良し悪しは決まらないと思う。」
「なるほど…、分かる気がします。」
「ではっ、パチンコはどうでしょうか! パチンコもスロットも通常時は粛々と玉をヘソに入れたり、リールをひたすらに回すよね。淡々とした演出の中に、さっき一緒に見つけてきたような小さな違いや違和感が転がっていて、それが大きなイベントに発展して、急に勝負時が訪れたりもする。そして、そんな勝負時をモノにできるかどうかは、日頃の徳と運次第!笑 "やれる!"と思っていたのに"全然やれない"ときもある。逆に、"ダメかな"って思っていたのに"めっちゃ勝てる"こともある。隣の人がいくら当てようが自分の利害には一切関係ないのに、すごく気になってしまうのもよくあるよね。そして、一般的には勝ち負けは出玉で決まるけど、"楽しんだ者も勝ち"というのはイツキが教えてくれたこと。 ほら? どう? ちょっと、人生とパチンコが似てる気がしてきたでしょっ!笑」
「おぉ!笑 ナナさん、ほんとですね! 人生とパチンコに意外と共通点があって、正直驚いてます!」
「わたしもぶっちゃけテキトーに話はじめたから、意外とまとまって自分でも驚いてるっ!笑」
パチンカー2人が夜空の下に広げた完全なる深夜テンションの産物だ。でも、2人が話していることが的外れかというと、決してそうでもなさそうだった。
少しでも仮眠を取ればいいものを、そんな話に耽っていたせいで、あまり休まぬうちに早くも大晦日の空が少しずつ白んできた。
今年最後の、そして来る年の最初の一戦が静かに確実に始まろうとしていた。
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