第12章:未来へ打ち出せ
第114話:旅の準備
クリスマスが過ぎると、それを待っていたかのように急に世間が年末ムードへと一変する。
ショーウィンドウに高々と積まれたプレゼントボックスは姿を消し、代わりにデパートの入り口には門松が並ぶ。こないだまでクリスマスリースがかけられていた家々のドアにもしめ縄が吊るされていた。
こうなると師走の過ぎゆくスピードは誰にも止められない。
イツキは本格的な寒さによる末端冷え性に苦しみながらも、大学のテストやらレポートやらを効率的にこなしつつ、部屋を掃除したりアニメを見たりして、今年の終わりに備えていた。
同様にナナも大学の諸々を捌きつつ、並行して撮影の仕事もこなすという、慌ただしい日々を送っていた。
忙しいというのもあったかもしれないが、2人ともここ最近は一切パチンコを打っていなかった。魅力的な新台も登場する年末シーズン。もちろん今すぐにでも打ちたいのだが、実践動画配信を見るにとどめ、ぐっと我慢していた。
そう、あっという間にやってきた12月30日。これから向かうパチンコオールナイトで思う存分に遊びまくるためである。
毎年、三重県のパチンコ屋で開催されるパチンコオールナイト。この時に限っては、12月31日 9:00から1月1日 25:00まで、ぶっ通しでパチンコ屋が営業しているのである。
時間にして約40時間という普段では考えられないような長い営業時間だ。つまりは、体力と財力さえあれば、ほぼ丸2日間パチンコを打ち続けられるということだ。
ちなみにだが、三重県にあるパチンコ屋だけがこの時期夜通し営業しているのは、伊勢神宮に訪れる参拝客のお手洗いのためというのがまた面白いカルチャーだ。そして、伊勢神宮に来る人に負けず劣らずの人々がパチンコオールナイトにやってくる。
遅くに到着して台が取れなかったでは話にならないので、イツキとナナはしっかりと12月31日の9:00を目指して、12月30日の18:00ごろに東京を出発することにした。
イツキは、12月30日のお昼頃からソワソワと旅の支度を始めていた。まずは、いつものキッチンでインスタントコーヒーを飲むところから。
部屋は温かく、コーヒーだってホットなのに、マグカップを持つイツキの手はかすかに震えていた。念願のオールナイトに行けるからだろうか。ナナと一緒にゆく旅行だからだろうか。おそらくどっちもだ。とにかく、武者振るいするほどにイツキは高まっていた。
それは、ナナも同じだった。一見、派手な見た目のナナだが、男子と2人きりの旅行は初めてだった。あれやこれやと服を出しては、ベッドに並べ、特にかわいくキマるものを選んでいた。スマホには、あやのとまろからの「楽しんでね!」やら「お土産は惚気話でもいいぞ〜」といったメッセージが絶え間なく届き、それに返信するたびにナナの手は止まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます