第112話:あの日の約束
相変わらず綺麗な髪にドライヤーをかけているナナを横目にイツキは浴室に入り、軽くシャワーを浴び、ゆっくりと湯船に浸かった。
あんなに真面目な話をした後にも関わらず、湯船に浸かると、ついさっきまでここにナナが入っていたんだよなぁ、なんて変なことをイツキは考えてしまっていた。
それにしても、やっと自分の人生と素直に向き合うことができたイツキは、もう一度自分の言葉や決意をひとり振り返った。
目標や夢、志は自分の中だけで大切にするのも良しだが、誰かに言うことでさらにその気になったり、現実味を帯びたりするものでもある。
そういった意味でも、今日、イツキがナナという存在に夢の再出発を宣言できたことは大きかった。再び夢にピンッと帆が張られたことで、イツキの心はとても軽やかになり、今すぐにでも何か行動を起こせそうだった。
イツキが考えに耽っていると、いつしか部屋からはドライヤーの音は消え、物音もしなくなっていた。"しまった!つい、浸かりすぎた…!"とイツキは慌ててお風呂から上がり部屋に戻ると、ナナは大きなベッドの片側で眠そうに横になっていた。
思えば、この半年と数ヶ月の間にイツキはナナの色々な姿を見てきた。おしゃれな私服、セクシーな私服、浴衣に水着。ただ、ラブホテルのベッドにバスローブで横になっているという、こんな無防備なナナを見るのはさすがに初めてで、イツキはどうしていいものかただただ困ってしまった。
「ナナさん、すみません、、長風呂しちゃって…。ぼく、こっちのソファで寝ますから、、どうぞベッド使ってください。」
まだ起きているのかわらかないナナに、イツキはそっと声をかけた。
「んっ……? はっ!! あぶなっ! 寝ちゃうとこだった! てかっ、もはや寝てたっ!笑」
寝る気のなかったナナは手で髪をとかしながら上半身を起こした。
「あ、すみません…! 起こしちゃいましたね…。 そのまま、ベッド使っていいですよ。」
「イツキもおいでよっ! こんなに広いんだから大丈夫だってっ!」
「いや、、でも……。」
「なになにっ、もしかして照れちゃってるっ!?笑 それに、ほらっ! このベッド、多分いいやつっぽいよ!」
「わかりました…。」
空いている片側のベッドを手で叩きながらニヤニヤ笑うナナに負けたイツキは、ナナの隣にそっと入った。
そもそも存在を知らないくらい無縁だった大学イチの美女と、理由はともかくとしてラブホで同じベッドに入る日がくるなんて…、人生は本当に分からないもんだなと思いながらイツキは布団の端をきゅっと掴んだ。
ただ、そんな余裕のあることを考えられたのは最初の数十秒で、いざ隣にナナがいるとなると、すぐにどきどきで頭がいっぱいになった。
ナナはナナで、イツキを同じベッドに誘ったのはいいものの、思いのほかイツキのことを意識してしまい、ついイツキと反対側を向いてしまっていた。
「ナナさん…?」
「うんっ?」
「あの、、前にした約束、覚えてますか?」
「約束っ?」
「はい。 初めて並びで打った日に、なんでも好きなお願いをひとつ聞いてくれるっていう約束です。」
「あ、うんっ! イツキが勝ち分を分けてくれた時のね!」
「あの約束なんですけど…、使ってもいいですか?」
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