第110話:バスタオル一枚

 普段の生活では絶対に座らないような黒い革張りのソファ。座り心地はとてもいいが、イツキの気は一向に休まる気配がなかった。おまけにお風呂の方からは、ナナの服を脱ぐ音がしっかりと聞こえてくる。


 以前にナナの部屋で事故的に見てしまった下着たちもこのタイミングでイツキの脳内にフラッシュバックされた。今日つけている下着も、この前見てしまった中のいずれかかもしれない…。

このままここに座って、ナナのシャワー音まで聞こえ出したら、いよいよおかしくなってしまいそうだ。


そういえば、緊張が続いていたせいか、喉が渇いていることに気づいたイツキは飲み物を買いに部屋を出ることに決めた。


「ナナさんー、ちょっと飲み物買ってきますけど、何かいりますか?」


「サンキューっ! 助かるっ! じゃー、ジンジャーエールかコーラでよろーっ!!」


 イツキはナナのリクエストを携え、部屋を出た。部屋を出て廊下を歩いていると、少し気持ちが落ち着き、飲み物を買いに行く作戦が正解だったことがわかった。


 しかし、部屋を出ることに意識がいきすぎており、イツキは財布もスマホ持っていないことに気がついた。なーにやってんだ…、とイツキは自分の太ももを叩き、部屋に戻った。


「うわーーっ!!!!! えっ!! ちょっと待って待って!!」


 イツキが部屋を開けるとほぼ同時にナナが驚き混じりの高い声をあげた。イツキが戻った部屋には、ギリギリバスタオル一枚だけで体を隠したナナが立っていた。


「す、すみません!!!」


 イツキはすぐに後ろを向き、とりあえず全力で謝った。


ちらっと見えた感じ、本当にタオル一枚なので、隠すべきところを隠し切れているかわからない。イツキは目の前で起きていることが、もうなにがなんだか全く意味がわからなかった。


「帰ってくるの早すぎないっ!?」


「すみません!! 財布忘れてしまって。てっきり、ナナさんはお風呂に入っているかと…。」


「あ、そゆことねっ! なら、、しょうがない…。 いや、わたしもごめん。その、アクセをバッグにしまっておこうと思ってさっ! いやーでも、まじでビビったっ! 一応、タオル持っててよかったしっ!!」


「ですね……。 では、もう一度いってきます……!」


 イツキは下を向いたまま財布を手に取り、そそくさと部屋を後にしようとしたその時だった。


「…ちょっと待って。」

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