第109話:一緒に入るっ?

 ホテルの中に入ると、大きなタッチパネルがあり、ずらーっと部屋の写真が表示されていた。すでに人が入っている部屋はグレーアウトされており、見たところ4部屋が空いているようだった。


 初ラブホの2人だったが、泊まりたい部屋のボタンにタッチすればいいということはなんとなくわかった。


 よく見てみると、部屋の写真の隅には宿泊料金が記載されていて、価格の差を見るに4部屋のうち3つが中級グレード、1つが高級グレードの部屋だということがわかった。高級な部屋の写真はお風呂やベッドも広そうだった。


「この普通っぽい部屋にしますか?」


 イツキは無難に中級の部屋を指さした。


「うーん、、せっかく結構勝ったし、なにげお互い初ラブホだしさ、この高そうな部屋いってみないっ? ほらほら、お風呂もめっちゃ大きそうで良きじゃんっ!?」


 さっきまで一緒に緊張しているように見えたナナは、すでにこの場に適応し、すでに楽しみ始めているようだった。


「そうですね! この際、高い部屋にしちゃいましょうか!」


「そうこなくっちゃっ!」


 ナナは嬉しそうにパネルをタッチし、2人は指定された部屋へと向かった。イツキは少しづつ平常心を取り戻しつつも、廊下に並ぶドアの向こうで何が行われているかということは極力考えないように努めた。


 イツキとナナが選んだ部屋はフロントで見た写真と大きく変わりなく、黒を基調とした綺麗で大人っぽい部屋だった。部屋に入ってしまえば、たしかに高級寄りではあるが普通のホテルと大きく変わらないように思える。


 しかし、よくよく見ると、部屋の真ん中にベッドがあったり、その付近にいかにもなモノが置いてあったり、やはりラブホ感は拭えない。イツキはどこに身をおけばいいのかわからず、そわそわがとまらなかった。


「イツキー!! すっごっ!! みてみてっ!! お風呂にテレビとかついてるんだけどっ! やばーっ! 寒かったし最高っ! てかっ、入浴剤豊富っ! ドライヤーもいいやつっ! カップ麺もある! うけるっ! 控えめに言ってかなり良きじゃんっ! これはまじであがるっ!」


 部屋で突っ立っているだけのイツキをよそに、ナナはすごいスピードで色々な戸棚をあけたり、アメニティや設備をチェックしては、ラブホのクオリティに感心していた。イツキも言われるがままにお風呂場をのぞいたが、高級な部屋ということもあってたしかに豪華であった。


「たしかに、すごいですね。ジャグジーやライトアップ機能までありますよ!」


 バスタブ付近のパネルをいじるイツキに、後ろからナナが近づいてきた。


「イツキ〜、」


「はい?」


「お風呂、一緒に入るっ!?」


「……な、ナナさん?! おっ、わっ、、」


 腰が抜けるほど驚いたイツキはお風呂場の床に足をとられ、豪快に尻餅をついてしまった。


「あたた……」


「あははっ! イツキ、ちょっと大丈夫ーっ?? うそうそ、じょーだん!笑」


 ナナはイツキに手を貸しながら、おかしそうに声を出して笑った。


「冗談でもやめてくださいよ!笑 ただでさえ、ここ落ち着かないんですから!笑」


「ごめんごめん、まさかこけるとは思わなくてっ!笑」


「じゃあ、ナナさんからお風呂どうぞっ!」


「まじっ? やさおじゃんっ! じゃ、入っちゃおうかなっ!」


「寒かったので、ゆっくり入ってくださいね。」




 お尻をさすりながら部屋に戻ってきたイツキはスマホを手に取った。


 ナナがパチンコ屋に戻ってきたという報告、そして以前背中を押してくれた感謝のメッセージを江奈に送信した。本当は直接伝えたかったのだが、なぜだか最近はいつものパチンコ屋で江奈の姿を見かけることがなかったのだ。


 <ぴろん♪>


 思っていたよりずっと早い返信に若干驚きつつイツキが再度スマホを開くと、"ハートを可愛く抱きしめているもちぐま"のスタンプだけが江奈から返ってきた。


 <ぴろん♪ ぴろん♪>


 イツキが何かを思ったり、アクションを起こしたりする間も無く、すぐに"もちぐま"のスタンプは削除され、代わりに"よかった!""おつかれ!"というスタンプが2つ送られてきた。


 ここで"はて?"と思うも、とりあえずの報告ができたと思ったイツキは、スマホを置き、慣れないソファに座り直した。

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