第101話:のぼせるまで
「んでさ、ナナ。」
彩乃は演技がかったようにわざとらしく一拍おいて、改まった空気感を出した。改まった空気といっても、深刻なそれではない。少し場を落ち着かせる程度のものだった。ナナと麻呂もきゃっきゃとふざけるのをやめ、静かにお湯にもどった。
「ナナさ、、あの、イツキくんって言ったけ? とはどうなのよっ!? あの人もパチンコやるんでしょっ?」
彩乃はお湯の中でナナとの距離を詰め、肘でクイクイとつついた。
「えっ、、!?」
まさかここでイツキの話になるなんて思ってもみなかったナナはかなり不意をつかれた。
さっきの発言もそうだけど、やっぱり親友はすごいなぁ。もはや、わたし自身でさえ意識しきれていない鋭いとこを突いてくるなぁと、ナナはドキッとする一方で感心もしてしまった。
それにしても、いまの質問をされたのがお風呂でよかったとナナは思った。お風呂は感情をうまく隠すのに、うってつけの場所だ。さっきは涙を隠せたし、今は顔が赤くなっているのに気づかれずに済む。
「んーっ? どうなのって、なにがーっ?」
ナナは顔半分をお湯につけ、ブクブクとしらばくれた。
「あれあれ〜!笑 ナナー! なんか乙女の顔になってないかー!? こないだプールで会った時も、嬉しそうな顔してたぞー!笑」
「なってないよっ!!」
「ほぉ〜、ほぉ〜。ナナさん、可愛いやつですなぁ〜。」
「ちょっ、麻呂までやめてよっ!」
"果たして、わたしはイツキのことをどう思っているんだろうか。わたしにとってイツキはなんだろうか。パチンコきっかけの出会いということもあって、他の友達とはちょっと違う特殊枠というか特別枠にいることはたしかだ。ただ、それ以上のことは、頭で考えることではない。それは心で感じることなんだ。まぁ、今のわたしがイツキに対してどんな感情を抱いていたとしても、彩乃と麻呂という信じられる2人にならどう思われてもいいかな!"とナナは再びお湯にブクブクと顔半分をつけながら思った。
「てかっ、人のことより、彩乃と麻呂はどうなのっ!? ほらほらーっ!! この3人の間に秘密はなしなんでしょーっ!? 気になる人くらいいるんじゃないのーっ!?」
「わたしは〜、BLが〜〜、」
「こらっ! だから、麻呂はBLになると声が大きいっ!笑」
「あははっ!!笑」
互いを湯煙に巻きながら続く恋バナは、みんながのぼせるまで続いた。夜空に浮かぶ三日月もやがて傾き、遠くから一緒になって笑っているようだった。
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