第11章:14年越しの復活
第102話:1年に1度楽しみ
人が誕生日を祝うように、お店や会社も創業やオープンを記念日としてお祝いをする。それはパチンコ屋も同じである。
見渡して見れば、色々な場所にあるパチンコ屋。大きな駅や人が集まる激戦区には、たくさんのパチンコ屋がひしめき合っているなんてこともある。そういった中で、何年も営業を続けるということは、決して楽なことではない。
一歩パチンコ屋さんに足を踏み入れてみると、新台の入れ替えや景品のチョイス、清掃からおもてなしまで、お客さんを楽しませようとする工夫や努力があらゆるところから感じられるものだ。
いまでは、「周年イベント開催!!」といったような大々的なイベントは禁止されているものの、やはりお店の周年日には、"何か"を期待して人が集まってくるものだ。その"何か"とは、いわゆる高設定であったり、釘の甘さであったりする。実際のところどうなのかはさておき、とにかくお店がお祭りムードと活気に包まれるのだ。
季節は移ろい、かなり冬らしい寒さになってきたある日のこと。この日は、イツキが1年に1度楽しみにしている、新宿のパチンコ屋"エヌパヌ"の周年日であった。
イツキはモーニングルーティンであるインスタントコーヒーをいつもより少し熱めに作り、鼻歌を歌いながら着替えたかと思うと、朝早くから家を出て、少年のようなワクワクした顔つきでエヌパヌの抽選列に並んでいた。
冷たい風が吹くと、久しぶりに出番が回ってきた冬服に染み付いていたタンスの匂いが香り、イツキは今年も冬がやってきたんだな、と身を持って実感した。同じく列に並んでいる人々も温かそうな服に身をつつみ、なんの台で勝負をしようかスマホを見て検討してたり、連れと議論を交わしたりと思い思いの朝を楽しんでいるようだった。
ちなみに、合宿中のナナと電話をしてからは数日が経っていた。その日から、イツキとナナとの間に特に大きな出来事はなかったし、連絡も取っていなかった。
ただ、イツキはもうナナのことを心配していなかった。きっと、ナナとまたパチンコが打てる。イツキはそんな気がしていて、気持ちはとても前向きだった。
イツキが前向きな理由はそれだけではない。これまでのナナやエナとのやりとりを通じて、自分の将来に対しても色々と考えを巡らせ、少しづつだが整理ができてきたのであった。
これまでの自分はどうだったのか、これからの自分はどうしたいのか。どっちつかずの毎日の中でずっと悩んでいた問いに、自信を持ってアンサーができそうな予感がしていた。
お店の周年というこの日にイツキが選んだパチンコ台は"ソードアート・オフライン"。ナナの影響でアニメを見ている中で、イツキが特に好きになったアニメのパチンコ台だ。数多く出てくるヒロインの力を借りながら、成長してゆく当アニメの主人公の姿に、イツキも少なからず共感できるところがあったのだろう。
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