第98話:信じられる親友

「ねぇ、ナナ。ナナはさ、パチンコをやっていることを言ったら、うちらに嫌われると思ったの?」


 彩乃は引き続き強めの口調で続けた。イスに座ったままではあったが、姿勢はかなり前のめりで目は真っ直ぐにナナを見ていた。彩乃の圧は、ナナの口を一瞬籠らせた。


「……うん。……その可能性もあるかなって。」


 ナナは下を向き、彩乃とは目を合わせずに小さな声で頷いた。はっきりとは分からないが、明らからに彩乃は何か不満そうだった。


「ナナはうちらをなんだと思ってるの!? ねぇー? 麻呂!?」


 彩乃は同意を求めるように麻呂を見た。


「そ、、そうだぞ〜! ナナさん、これは彩乃に怒られてもしょがないぞ〜!笑」


 急に話を振られた麻呂は面食らいながらも、意見としては彩乃に賛同のようだった。ただ、彩乃が感情的になった分、麻呂は場を和ませようと笑顔で答えた。


「そーだよ! 怒るというか、悲しいんだよ! だって、、うちらがそんなパチンコくらいでナナのことを嫌いになるわけないじゃん!! うちらは、出会ってからずっと一緒にいたじゃん。一緒に色んなことを頑張ったし、馬鹿なこともしたし、喧嘩だってしてきた。」


 彩乃は麻呂も訴えかける対象に加えて話を続ける。


「長い付き合いだからナナや麻呂の悪いところも知ってる!! でも、その何倍もの良いところだって知ってる!! だから、仮に2人が警察に捕まっても、うちは2人の味方をするよ!! それくらい信じてるんだから、うちのことも信じてほしい。うちは、何があってもナナと麻呂のことは嫌いにならない!」


 当に伝わっていると思っていた2人への想いを語る彩乃は半分涙目になっていた。そして、横にいる麻呂はナナの目を見ながら、"うんうん"と彩乃の言葉にずっとうなづいていた。


「………彩乃。麻呂。」


 ナナは思わず言葉を失い、その代わりに涙が出た。


「彩乃、麻呂! ごめん! ほんとごめんねっ!! 世の中には、パチンコを絶対悪のように言う人もいるし、、元彼にもそれで振られたから……。」


 この時はじめて、彩乃と麻呂はナナと元彼との別れの原因を知った。振られた理由を尋ねると、いつもナナが居心地悪そうにするのはこのためだったのか、と合点がいった。


「なるほど……。そういうことだったんだね。」


 彩乃はイスから立ち上がりナナに近づくと、ぎゅっとナナを抱きしめた。


「ナナの元彼の価値観をどうこう言うつもりはないけど、それはつらかったよね。だって、ナナの好きなものなんだもんね。もっと早く言ってくれればよかったのに。」


 ナナを包み込んだ彩乃の体は温かかった。それは、風呂上がりという理由だけの温かさではなく、不安でいっぱいだったナナの心の奥まですーっとやさしく浸透していくようなぬくもりだった。


 きっと彩乃と麻呂は自分のことを嫌いにならないと、ナナは心のどこかでわかっていた。でも、"咄嗟の行動"や"考えすぎた思考"は、結果的に2人のことを信じきれていないものになっていた。


 こんなにいい友達を持ったのに本当に情けない、とナナは唇の端っこをぐっと噛んだ。そして、ナナは彩乃の浴衣に黙ったまま埋もれていた。彩乃の浴衣には溢れるナナの涙が沁みた。


 それは、いつもクールな彩乃が感情的になったこと、やっぱり2人は信頼できる仲間だったこと、そんな2人のことを悲しませてしまったこと、でも無事に2人にパチンコのことを話せて安心できたこと、いろんな感情が大きな波となってナナに押し寄せて、流れた涙だった。

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