第85話:「試合の勝者」と「勝負の勝者」
さっきまで朝だったのに、いつの間にか外は暗くなり、ついに約束の18:00がやってきた。
ナナと江奈は、一旦打つのを止め、景品カウンターへと向かった。勝負の行方と2人のことが気になるイツキはナナに着いていった。
朝一は最高のスタートを見せたものの、後半につれて尻すぼみになってしまったナナ。一方、前半は一切スロットを打たないことでマイナスをおさえ、後半から狙いを定めて一気に出玉を獲得した江奈。
結果は、圧倒的な差で江奈の勝利だった。
獲得枚数を見て、イツキもやっぱり江奈はさすがだなぁと思った。イツキは1日中となりでナナを見ていたので、悔しがっているのかなと思ったが、ナナはそんなことはなかった。
「さっすが、江奈ちゃんっ!! 足元にも及ばなかったっ! でもねでもねっ、朝一は調子よかったのっ!! 朝イチだけっ!笑 あぁ、完敗だけど、まじ楽しかったっ! 終わっちゃうのが残念すぎるしっ! 江奈ちゃん、ありがとねっ!!」
ナナはにこっと笑い、試合終了の握手として、手を差し出した。
江奈は差し出されたその手とナナの言葉を聞いて、ハッとした。"試合に勝って、勝負に負ける"という言い回しがあるが、江奈はこれまでの人生でその言葉にピンときたことがなかった。"勝ちは勝ちだし、負けは負けでしょ"と。
ただ、勝負に負けたのにとても楽しそうなナナを見ていると、その言葉の意味が初めて実感を伴ってわかるようだった。
(ナナさんは本当に楽しかったんだろうな。きっと打っている時もずっと楽しかったんだろうな。)
江奈は心の中で静かにそう思った。
「いやぁ、ナナさん完敗でしたね! 最後の当たりがラッシュだったら、まだわかんなかったですけど! でも、江奈は本当に強いですから、僕も勝てませんよ!笑」
ナナにつられるように、なんだかイツキも楽しそうだった。その様子を見て、江奈はひとつのことに気がついた。いや、思い出したという方が近いかもしれない。
(そうだ、、パチンコ・スロットは1番楽しんだ人が1等賞だ。パチンコ・スロットは勝つこともあるし、負けることもある。だからこそ、楽しんだもん勝ちなんだ。あぁ、この勝負、いや、普段から、ナナさんはあたしよりパチンコやスロットをちゃんと心から楽しんでいるんだ。そうか、そういうことだったんだ……。心から楽しめている人を見て、センパイは心を動かされたんだ。)
江奈はこの勝負を通して得たかった答えを、ナナとの会話と自分との対話の中で見つけることができた。江奈は差し出されたナナの手をぐっと掴んだ。
ナナの右手は優しい感触で、江奈の手より少しだけ温かかった。
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