第84話:江奈のゾーン
いつもなら、午後イチあたりにお昼に行くナナであるが、今日は返上だった。それは無理をしているわけではなく、単純に楽しかったからであった。江奈が本気のスロットでかかってきているこの勝負。ナナは1秒も無駄にしたくなかった。
ただ、朝一こそ調子がよかったものの、午後に差し掛かるにつれいまいち冴えないナナ。当たりを引くことができるのだが、ラッシュを獲得することができない。さらに、初当たりも重いときている。
どうしても、パチンコはラッシュで出玉を伸ばすゲーム性のため、徐々に出玉が飲まれていくというナナにとっては苦しい展開となってきた。
まだプラス域だが、流れが悪い。一方で、見に行かないまでも、上のフロアにいる江奈の動向も気になる。ナナはヒリヒリ、ワクワクしながら、ハンドルを握り続けた。
そんな中、これまで沈黙を貫いてきた江奈が動いた。ゆっくりと立ち上がり、黒のミニスカートの裾をぱんぱんと手で払うと、休憩室からフロアへと出た。可愛い顔だが、獲物を狩る準備ができた目をしていた。
江奈は、午前中の下見を頼りにフロアを軽く巡ると、さっきまで前任者が打っていた台に静かに着席した。
江奈が選んだ台は「
冥界の神"ハーデス"をテーマにしているだけあって、台のデザインは黒と赤を貴重とした重厚感のあるものとなっており、それは江奈の雰囲気と非常によく合った。
このハーデスシリーズは今作で4代目となっており、歴代の中でもどちらかというとハイエナがしやすい仕様になっていた。加えて、午前中からまずまずの稼働であったため、ハイエナ時の伸びも期待できる状態にあった。
打ち初めはイマイチかと思われたが、やはりステージの整った江奈は強い。まるで台の挙動を操るかのように、ひとつの当たりで出玉を確実に着実に伸ばしてゆく。その姿、まるで"荒れ狂う駄犬を手懐ける女神なり"というようだった。"ハーデス"は人気機種のため、導入台数も多い。そのため、江奈は器用に複数の駄犬を手懐けていった。
刻一刻の18:00が迫る中、ナナはいまだラッシュに恵まれずにいた。しかしそんな苦しい状況の中でも、一玉で逆転できる可能性もあるのがパチンコでもある。
"ナナ選手、強豪の江奈選手を相手に、ここまで奮闘しています!"
"ナナ選手、あと1回ラッシュを取ることはできるのか!?"
"そこが大きな鍵になりそうです。"
"おーっと、これは強演出だったが、当たりならず!惜しいっ!"
"後半戦もあとわずか!でも、まだ時間はある!諦めるなナナっ!"
ナナの脳内では、さながらサッカー実況のようなものが再生されていた。
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