第81話:ナナ vs 江奈

 3人の中で1番乗りの入店をキメたナナは迷わずにパチンココーナーを目指した。急遽、江奈と勝負することになったので、打つ台を変更しようとも思ったが、変に気負うのも良くない。そう思ったナナは当初の予定通り"森物語"のコーナーへやってきた。


 比較的早い入場だったため、台は選び放題だった。ナナは自分なりに釘の様子や前日の当たり履歴を確認していった。


「あ! ナナさん! "森物語"で勝負ですか?」


 そうこうしているうちに、"森物語"のコーナーにイツキもやってきた。


「うんっ! 迷ったんだけど、ここはやっぱ打ち慣れた台で勝負っしょ!! こないだのイツキとの勝負みたいに今日も勝っちゃうよーっ!!」


 ナナは笑顔で意気込みをみせると、選んだ台にもちぐまぬいぐるみをセットした。いきなり始まった2人の勝負の理由や行方が気になるイツキは、一旦自分の収支は度外視して、とりあえずナナの隣に座ることにした。


「なになにっ!? イツキがとなりっ? めっちゃ心強いじゃんっ!笑」


 ナナはもっと勝負が楽しくなる要素が増えて、嬉しそうだった。


 つい数ヶ月前までは、「今日もこの人出してるっ!すごっ!」と背中を見ているだけだったイツキと江奈。気づけば、2人と知り合いになって、パチンコをするのがより楽しくなった。そして、真意は置いておいても、江奈と勝負まですることになった。せっかくだから、この勝負、楽しみたい。そして、勝ちたい。この8時間、できるだけ当てたい。ナナはそんな想いをこめて、ハンドルを握った。


 緊張感のせいだろうか、ナナはいつもより一玉一玉が重く感じていた。変動開始するたびに、当たりに期待する気持ちも大きく、まだ当たってもいないのに、おしゃれにカスタマイズされたナナのスマートウォッチは心拍上昇を感知するほどだった。


 ただ、勝負事に強いのがナナだ。打ち初めてすぐ、アツいチャンスを掴んだ。


 <ぴろんぴろん♪>


 入賞時の保留はどんぐりがデフォルトなのに、ねこのシルエットの保留が現れた。その音につられて、横からイツキも覗き込む。


「うわっ! ねこシルエット保留っ! やばくないっ!? これって、"ワラッタ" か "でしねこ" のリーチ確定じゃんっ!」

 

 <ぴきゅーん!!>


 保留の順番が来た時、大きな音と共にねこのシルエットが茶トラ色のネコの"ワラッタ"に変化した。


 <きゅーん!!>

 <ぴかーん!!>


「よしっ!ワラッタだ!」と、ハンドルを握るナナの力が一段強くなるのと同時に、画面いっぱいにワラッタの絵が出てきた。


「イツキイツキっ!!! 見て見て見てっ!!! ワラッタ背景っ!! 激アツじゃん! てかっ、まじで可愛いがすぎるしっ!!」


 ワラッタ背景は当選期待度85%超え。どこに出しても恥ずかしくない激アツ演出だ。ナナはイツキを呼んだり、画面を撮影したり、打ち始め早々から大忙しだった。


 <ワラッタの新聞配り 〜全部配れたらボーナス確定!?〜 ★★★★☆>


 ナナが食い入るように台を見つめる中、ワラッタリーチがスタート。ちなみにだが、喫茶店のマスターであるねこのワラッタは情報家の一面もあり、森のみんなに毎日新聞を配っているのである。


「よしよしよしっ! 赤文字テロップっ!!」


 <号外だよぉ〜!号外だよぉ〜!>


 新聞を配るワラッタのもとに、森の動物が集まり、新聞がはけていく。


 <明日の話題に事欠かないよぉ〜!号外だよぉ〜!>


 さらに、新聞の束は順調にはけていく。


「いけっ!! 頼むーっ!!」


 ナナは、終始祈るように、ほとんど瞬きもせずに演出を見守った。


 <最後の一部だよぉ〜!>

 <!!PUSH!!>


「お願いしますっ!!」ナナは気合を入れてまつぼっくりボタンを押した。


 <ずがごーーーーーん!!!>

 <ぎゅいんぎゅいんぎゅいん>

 <きゅぴぴぴぴぴぴぴーーーーーん!!!>

 <555>


「最後の一部、ほしいですっ!!」小ぐまの"ムープ"が最後の一部をもらい、見事当たり確定。


「やったやったやったっ!! イツキっ、今日のわたし、いけるかもっ!!」


 ナナはその場で"うしうしっ!"とはしゃいだ。これにはイツキも驚きつつ、やっぱナナさんは喜び方も可愛いなぁ、なんてことを思っていた。とにもかくにも、ナナの方はこれほどにないほどの好スタート切った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る