第8章:"好き"からの離席
第78話:優しい朝
少し寝られたような気もしたし、全く寝られなかった気もした。硬い床のせいか、とにかくほぼ疲れの取れていない状態でイツキは目が覚めた。体のあちこちが痛く、全身に重りをつけたように気だるかった。そのため、目をつむったまま、かちこちに固まった体をとりあえず動かした。
「…んっ? ……んんっっ? うわっ!!」
イツキは眠けまなこを開けた瞬間、思わず声をあげて驚いた。
無理もない。ベッドで寝ていたはずの江奈が床に、しかも隣にいて、さらにイツキが江奈にくっつくような体制になっていた。触れている部分から、江奈の体が温かく、柔らかいことがわかる。しかし、その分"やばい!"という思いがイツキに募る。
なんだこの状況は…、まじか、まじなのか……。そう思いながら、イツキが少し体を動かすと、江奈も目を覚ましたようだった。目の前にある江奈の顔。その目が眠そうに、そしてゆっくり艶やかに開いた。
「ん? あ、センパイ。おはよ。」
この体制で「おはよ。」とはなんだとイツキは思った。てっきり、「人が寝ている間になにしてるんですか!?キモいです!」と、即効で蹴飛ばされると思っていたので、思いのほか優しい反応にイツキはちょっと面食らってしまった。
床で寝ていた今の体に蹴りが入ったら、本日は機能停止しそうだったのでイツキは少し安心した一方、まだ油断はできない。今後の対応次第では、まだ蹴りが入る可能性も十分にあるだろう。
「あー、うん、おはよう。えっと……、江奈、ベッドから落ちてきたの?」
「…そうみたいですね。」
「そっか、そっか。えっと、昨夜は特に寒かったのかな……。ごめんね、その、、なんか寝ている間にくっついちゃったみたいで……。あはは。」
「……そうみたいですね。」
イツキは苦笑いをしながら、そーっと慎重に体を江奈から離した。すると、江奈は離れていくイツキの耳元に近づき、そっとささやいた。
「センパイなら、、別にいいですよ。」
「…………」
江奈の吐息が耳に触れ、イツキは思わずビクッとした。体にはぞわーっと何かが走った。
え、ちょっと待って。何が別にいいんだ?寝起きということも相まって、イツキはこの状況が全然わからない。なんて答えればいいのか、どんな行動をすればいいのか、点でわからない。こんな江奈、見たことがない。
ただただ焦って、あわあわと混乱していると、ちょうどよくスマホのアラームが鳴った。
「ほ、ほら起きよう!!」
ナイスタイミング、とばかりにイツキは2人にかかっていた薄いタオルケットを勢いよくめくって、上半身を起こした。バキバキの体にも関わらず、イツキの上半身を起こすスピードは寝起き選手権で世界にも通用するレベルの速さであった。
「ちょ、ちょっと……//」
江奈が慌てた声を出した。イツキが見ると、江奈が着ていたぶかぶかのシャツが寝相の悪さではだけ、下着や素肌が露出する格好になっていた。諦めと照れが混ざった表情で顔を赤くして仰向けに横たわる無防備なその姿は、さすがにイツキからみてもエロさを感じるものだった。
「なにちゃんと見てるんですか……// キモいですよ!」
「ご、ごめんっ!!」
イツキは謝りながら、江奈にタオルケットを再びかけてあげた。いつものツンとした態度とは明らかに違って、口調は優しくと表情はふにゃっと柔らかかった。イツキは、幼馴染の江奈であることは十分に分かっているのだが、少しでも油断すると、吸い込まれそうな気がした。
またもタイミングよくスヌーズがかかったアラームが再び鳴り出した、8時過ぎのことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます