第77話:幼馴染は嫌だ

「江奈、ベッドつかっていいよ!」


 イツキはベッドの上の布団やタオルケットをきれいに整えた。シンプルなシングルベッドだ。「センパイのベッドですか?キモイです!」と言われないように、イツキは先手を打って、シュッシュッと消臭スプレーも吹きかけた。


「いいんですか? でも、センパイは?」


「おれは床で大丈夫だから。クッションもあるし。」


 イツキは2枚の薄い毛布をクローゼットからひっぱりだし、床に広げた。そして、小さなクッションを枕代わりにおいて、江奈に自分は大丈夫であることを見せた。


「じゃあ、電気消すよ?」


「はい……、おやすみなさい。」


 イツキは床に落ちていたリモコンで部屋の明かりを落とした。日が登るのがだんだんと遅くはなってきているものの、4時台とあってすでに外は少し白んでいた。そのため、部屋は完全には暗くならず、イツキは薄暗い部屋でぼんやりと天井を眺めた。


 江奈とは長い付き合いだ。しかし、こんなにも本音を聞いたり、言ったりしたのは11年一緒にいて初めてだったかもしれない。普段はツンツンしている江奈は思っていたよりも自分のことを考えてくれていたし、いけるだろうと横になった床は思っていたよりも硬かった。


 今日、江奈と話したことを振り返っていると、横になる前に感じていた"いたたまれなさ"もいつしか"感謝"に変わっていた。でも、この感謝の気持ちは"ありがとう"という言葉で終わらせていいものではない、自分なりのベストアンサーはなんだろう。イツキは天井の一点を見つめながら、そんなことを考えていた。


「ねぇ、、センパイ?」


「…ん?」


 薄暗い部屋の中で、もう寝たかと思っていた江奈が小さな声を出した。


「……えっと、となりにきてもいいですよ?」


「いや、大丈夫だよ。さすがにシングルに2人は狭いだろうし。」


「ですけど、一応センパイの家ですし、やっぱり床で寝かせるのはさすがに悪いといいますか…。で、でも、変なことはしないでくださいよっ!」


 イツキは床から上半身を起こし、ベッドで横になっている江奈の顔と同じ高さになった。そして、少し江奈の方に近づいた。


「おれのパンツを履いてる"幼馴染"に、変なことするわけないでしょ!笑 悪いとか思わなくていいから、ゆっくり寝な! おやすみ。」


 イツキはそう言って、江奈の頭をぽんと叩くと、再び上半身を床に戻した。


 江奈は思わず布団の端をグッと掴み、顔にかけた。


「もう……// だから、"幼馴染"はやめてよ。せっかく、勇気出して突っ込んだのに…、完全な低設定挙動じゃん…。」


 頭を触られた時、どんな顔していたのか心配になりながら、江奈は小さくつぶやいた。しがみついた布団はイツキの匂いがした。いつも通り"キモい"と思いつつも、江奈はすーっと心が落ち着くのが分かった。

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