第75話:シャワータイムトラブル

「ん? どした?」


 いくら幼馴染でも、このシチュエーションはさすがにエロい…、と思わずドキッとしたイツキだったが、「キモっ!」と一蹴されるオチが容易に想像できたので、変なことは一切言わず平然を保った。


「あの、そういえば、、えっと、、、下着がなかったです……//」


 江奈は照れながら小さな声をだした。


 正直、イツキは江奈の着替えのことなんて一切考えていなかった。まぁ、1日というか数時間くらいだし、同じものを着るのだろうと勝手に思っていたのかもしれない。


「センパイ、女モノの下着とか持ってませんよね…?」


「あるわけないでしょ!笑 逆に持ってたらどうする?」


「めっちゃキモいです!笑」


 江奈のイツキへの無茶振りと理不尽っぷりは深夜でも相変わらず健在、むしろ冴えていた。


「100歩譲って、上はいいんですけど、下は着替えたかったなと…。」


 江奈はしゃーないか、という諦めの表情で首を引っ込めた。


「あっ、おれの下着ならあるけど…? 開けてないやつがあるから、そのままあげるけど。ボクサーパンツだからいけるんじゃない?」


 イツキは風呂場のほうに呼びかけた。冷静になると何言ってんだ……、という提案だが、どうにかしてあげたいという思いが先行した結果、考えるより言葉が先に出ていた。


「はっ!? センパイのですか? なに言ってるんですか、キモいです!」


 江奈の答えは予想通りだった。まぁ、そうだよな…。変なこと言っちゃった…。と一応取り出した新品の黒一色のボクサーパンツを棚に戻そうとしたとき、お風呂場から再び江奈が顔を出した。


「でも、、たしかに、いけなくはないかもしれませんね。同じのを履くよりはマシかもです。」


 お風呂場で考え直した江奈は恥ずかしそうに風呂場から手だけを出した。


「そ、そうか…、じゃあ試しに。」


 イツキはパンツを急いで江奈の手に渡した。最初に小学校で声をかけたように、イツキは江奈の役に立つのが好きである。最近はもっぱらそういったことがなかったし、今回はかなり特殊なケースだが、江奈の役に立てるかもしれないことがイツキは単純に嬉しかった。


「どうだー? 大丈夫そう?」


 イツキが声をかけてからしばらくすると、お風呂場の扉が開いた。すると、まさかのキャミソールにボクサーパンツという姿で江奈が出てきた。


「センパイー! たしかに、意外といけますね! 悪くないです!」


 江奈に決して悪気はなかった。ただ、最初は"絶対にない!"と思ったイツキのパンツが意外とアリなので、単純に報告したかっただけだった。それに、男モノのパンツという時点で、江奈の感覚が麻痺しているようでもあった。


「おぉ、おう…! よ、よかった…。ぴったりじゃん。」


「ぴったりですかー? あたしのお尻が大きいとでも?」


「いや、きっとおれが小尻なんだ…。笑」


 イツキは目のやり場に困るし、何を言うのが正解かも全くわからなかった。


「とりあえず、服! 男モノとはいえ、いまの江奈にとっては、その、、それがパンツなんだから! あまり堂々と出てきちゃだめでしょ!」


「…………// センパイのせいで急に恥ずかしくなってきましたっ!」


 イツキの言葉に急に羞恥心を取り戻した江奈は、タタタタッと急いで風呂場へと戻った。


「あのセンパイ、、服も貸してください…。」


 お風呂場から再び江奈の困った声を聞いたイツキは、しょうがないなとスウェットを持っていた。


「あの、、部屋の中はちょっと暑いので、シャツとか持ってないですか? 白とか!」


 江奈は機能的には別にスウェットでもよかった。しかし、江奈はなんとなく男モノのシャツを借りてみたいという憧れをこの際だからやってみようと思った。


「リクエスト多いなぁ。白シャツ…? こんなんしかないけど…?」


 イツキは言われるがままに、長らく使っていない白シャツをタンスから出し、風呂場へ持っていった。それは、スーツと合わせて着るようなしっかりしたシャツではなく、よれっとした白シャツだった。


「うーん、ちょっとイメージとは違いますけど、まぁ合格としましょう! ありがとうございます!」


 やっとお風呂場からまともに出てきた江奈は、キャミソールの上からぶかぶかの白シャツを羽織り、とても嬉しそうに袖をパタパタしてみせた。


「センパイー、感想は?」


 笑顔でそう聞く江奈のことを、この時ばかりは素直に可愛いと思ったが、「やっぱり、そのシャツはさすがに大きくないか…?」とイツキはとぼけてみせた。

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