第74話:幼馴染の成長
「うわー、絵に描いたような男のひとり暮らしって感じですねー。なんか、さびしー。モテなさそー。」
部屋に入った江奈は、ちゃんとお決まりのセリフと独自の感想を言い放った。ちゃんと片付いているのだが、生活に必要な最低限なものだけがあるという感じで、おしゃれさや色気は全くなく、江奈の言ういかにも男のひとり暮らしという部屋であることに間違いはなかった。
「えっと、、何か飲む? といっても、水くらいしかないけど。」
「ありがとうございます! じゃあ、お水ください。」
江奈は部屋にぽつんと置かれたローテーブルの前にちょこんと座り、イツキに渡された水を一気に飲んだ。
「……えっと、じゃあ、、シャワー借りてもいいですか?」
江奈はグラスをテーブルに置くと、少し疲れた様子で立ち上がった。
「あ、シャワー浴びる?」
「当たり前じゃないですかっ! 涼しくなってきたとはいえ、昼間は少し汗かきましたし! いまは寒いですし。」
「そうだよね。えーっと、、ちょっと待って。」
イツキは少し慌てながら、タンスを漁った。
「えっと、これがバスタオルで、そこの扉がお風呂。シャンプーとかは、置いてあるのをテキトーに使って! 全然いいのじゃなくてごめんだけど…。」
大学生ともなれば、友達の家に泊まりに行き来することも増えるものだが、あまりそういった経験がないイツキには、こういう時の勝手がよくわからなかった。幼馴染とはいえ女子相手なので、イツキは家にある中で一番きれいと思われるバスタオルを選んで江奈に手渡した。
「ありがとうございます! センパイんちのシャンプーとか最初から期待してないので大丈夫です。一応言っておきますが、覗かないでくださいよ!笑」
イツキの家に来てから若干機嫌がいいように見える江奈は、笑って冗談を言いながらお風呂へ消えていった。
ほどなくすると、イツキがいるリビングにも江奈のシャワーを浴びる音が聞こえてきた。小さいアパートなので、仕方がない。11年前から付き合いのある幼馴染だけど、気づけば中身も外見も色々と大きくなって、ひとりの立派な女性になっている。お互い東京でひとり暮らしをはじめて、一緒に泊まる日がくるなんて……、と別に変な気が起きるわけではなかったが、イツキは先程の玄関前同様、どこか感慨深かった。
「あっ!! ちょっと、センパーイっ!」
シャワーの音が止まってしばらくしたかと思うと、お風呂場から江奈の大きな声がした。イツキが声の方を向くと、濡れた髪の江奈がお風呂場から服も着ずに首だけを出していた。
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