第51話:少年の夢
ナナは瞬きすることを忘れたような真剣な目つきでイツキの話を食い入るように聞いていた。集中しすぎて、相槌もなかったくらいだ。
「それからというもの、家で父とパチンコをする機会も増えました。そして、父の言った通り、世の中に登場した"森物語"は多くの人に喜ばれ、一気に人気機種になりました。僕も家で父と打ちましたが、本当に楽しかったのを覚えています。そして、父は多くの人に楽しんでもらえていることをとても喜んでいましたし、誇りに思っていました。やがて、小学生ながらに僕も大人になったらパチンコ台を作りたいと思うようになりました。ですが……、その時に気づいたんです。周りにはパチンコをよく思わない人もたくさんいるということに。」
ーーー14年前。イツキの通う小学校。
「今日は、将来の夢を書いて、みんなに発表しましょう!」
とある授業にて先生が課題を出した。まだ夢と呼べるほどのものがなかったとしても、将来のことを考えて、みんなに発表する形で声に出すことはとても良さそうだ。
鉛筆がなかなか進まない生徒もいる中で、すらすらと原稿用紙を埋めたイツキはみんなの前で堂々と発表をした。
「ぼくのお父さんはパチンコというものを作っています。家では、ぼくもお父さんと一緒にパチンコをしています。パチンコには色々な演出があって、光や音がすごくて、とても楽しいです。どの台も楽しいですが、ぼくはお父さんの作る台が一番好きです。将来はぼくもお父さんみたいなパチンコ台をつくって、たくさんの人を楽しませたいです。」
周りの生徒たちがスポーツ選手やパティシエ、科学者と発表する中、パチンコ台製作という夢がめずらしかったというのもあったかもしれない。しかし、それ以上のネガティブな声がざわざわとイツキの耳に聞こえてきた。
"イツキのお父さんってパチンコつくってるんだ"
"パチンコって、お金がなくなる危ないやつでしょ"
"うちの親もパチンコだけはやるなって言ってた"
"パチンコ屋には悪い大人たちが集まってるって"
"パチンコってギャンブルでしょ、裏でなんかしてる詐欺って聞いたこともある"
"人からお金をとるなんて、やばいじゃん。"
"それが「夢」って、最悪!"
「………………」
ーーー
「その時、僕はあたりが真っ暗になった気がしました。正直、その後どうしたのか、ちゃんとは覚えていません。でも、"自分の夢"にも"父の仕事"にも急に自信がなくなってしまったことだけはたしかです。"それが『夢』って、最悪!"という言葉が、何度も何度も頭に響きました。でも…。それでも! パチンコを嫌いにはなれなかったんです。どうしたって、パチンコが"悪"一色だとは思えなかった。たしかに、"ギャンブル依存性"などもありますし、負ければお金がなくなるのも事実です。悲しい思いをした人もたくさんいるでしょう。その一方で、日常生活の楽しみになっていたり、地域のコミュニティなっていたり、誰かを喜ばせているとも思うんです。そんなことを考えながら、大学で学び、パチンコたくさん打っています。僕はまだまだ迷ったままです。」
ナナはずっと黙ったままイツキの話を聞いていたが、目は今にも泣き出しそうにうるうるとしていた。
「話してくれて、ありがとう。イツキ、大変だったね。でも、、」
ナナはイツキの方を見た。
「でも、、"森物語"を作った人は、、いや、イツキのお父さんはやっぱり天才だねっ!!」
目を細めて、にこっと笑うナナの目からはキラキラとした涙をこぼれていた。
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