第52話:美女の過去
ナナの一言と笑顔と共感にどれだけイツキが救われただろうか。
この14年間、どんな時も頭の片隅にあった"自分の夢"と"父の仕事"に対する自信のなさや後ろめたさが、特効薬でも打ったかのようにすっと薄れていくような気がした。もちろん、完全に綺麗さっぱり消えるわけではないのだが、初めて肯定された気がしたのだ。
ナナは物事の表面だけを見て何かを否定することはしないと思っていたが、ナナに話して本当によかった。とイツキは心から感じた。
「なんだか、長い話ですみません。えっと、ナナさんはどうしてパチンコを?」
イツキはカバンからハンカチを取り出し、ナナに渡しながら、同じ質問をした。
「わたしの場合はアニメかなっ!」
イツキのハンカチで涙を拭いたナナは、少しテンションを取り戻した。
「わたしは昔からアニメが大好きだったから、その影響でっ! ある日、街中で好きなアニメの旗がなびいてて『なにここっ!』と思って入ったらパチンコ屋だったよねっ!! わたし、ものは試し精神でわりとなんでもトライしてみちゃうから、そのまま好きなアニメのパチンコやってみたの! そしたらさ、ろくにやり方も仕組みもわかってないのに、なんだかすっごく楽しくてっ! そこからアニメ以外のパチンコもやるようになって、最高だったのが"森物語"だったってわけっ!」
「なるほど! さすが、ナナさんのチャレンジ精神はすごいですね。」
「でもさっ、少しだけど、私もイツキの気持ちわかるよ。わたし、一昨年は彼氏がいたんだ。ふつーにいい人だった! でもね、わたしがパチンコをやってるのを知ると、"パチンコをする人は嫌だ!"ってなっちゃってっ。それで、振られちゃったんだよねっ。」
「……」
「そりゃさっ、限度を超えてのめり込んでたら止めるのもわかるけど…。なんか、わたしの趣味ってすごい悪いことなのかなって思っちゃって。それからなんだよね。パチンコを打っていることを周りに言わなくなったのは。でも、イツキと同じでわたしもパチンコを嫌いにはなれなかったし、絶対的な"悪"だとも思えなかった。今は周りの人にパチンコをやっていることを言わなくなっちゃったけど、本当はそれもおかしなことだと思ってる。本当は、好きなことは堂々と好きでいたいっ! だから、嬉しかったっ!! イツキがパチ友になってくれて、"パチンコは楽しんだもん勝ち!"って言ってくれて、本当に嬉しかったっ! 救われた気がしたっ! わたしもパチンコを楽しんでていいんだって思えたっ!」
今度はイツキがナナの話を黙って聞いていた。
「ナナさんも、話してくれてありがとうございます。好きなことが好きな人との別れに繋がってしまったんですね。それはナナさんも辛かったですね。でも、、」
イツキはナナの方を見た。
「でも、、安心してください。ぼくは、ずっとナナさんのパチ友ですから!」
にこっと笑うイツキを見て、ナナは再び、涙ぐんだ。
「まったく…、髪と服装をちょっとかっこよくしたら、言うこともかっこよくなっちゃってっ!!笑 でも、ありがとっ!!」
ナナはそう言うと、ベンチから立ち上がった。あたりはすっかり暗くなり、アイスコーヒーの氷もすべて溶けていた。街灯が灯った夜道を2人はゆっくりと歩き出した。
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