第5章:約束の遊タイム
第42話:最高の待ち合わせ
今日がどんな1日になるのか……、というイツキが抱える不安がどうでもよく感じるくらいに、ナナとの約束の日は朝からとてもよく晴れた。少年時代の心に戻れそうな夏らしい青い空と白い雲がどこまでも広がっていた。一方、日本の夏はいつからこんなに暑くなってしまったのだろうか、今日の最高気温は35度を超えてくるらしい。
暑さで寝苦しかったのか、それとも緊張のせいか、あまり熟睡できなかったイツキはベッドからゆっくり起き上がると、青空にむかって深呼吸をするとゆっくりとキッチンに向かった。
いつも通り、インスタントのアイスコーヒーをつくる朝。しかし、今日はやはり落ち着かない。なんせ、あのナナとお出かけなのだ。目的は、イツキをイケメン風にするということなのだが、どうしても内容はデートっぽくなるだろう。
幸いなことに、話のネタはゼロではない。パチンコの話であれば、ある程度は長尺で会話ができるし、そこそこは盛り上がれる。だが、イツキは他の話題がさっぱり思いつかなかった。流行りのネットドラマ?大学でのこと?芸能トピック?、どれをとってもイツキは疎く、まとまな会話ができる気が全くしなかった。
こればっかりはしゃーない…、と半分諦めの出たとこ勝負を決め込むと、イツキはアイスコーヒーを一気飲みして、出かける準備に取り掛かった。
といっても、いつも通りの何のこだわりもない白ティーと同じくこだわりのないジーンズ。ただ、夏だからと匂いには細心の注意を払い、消臭ミストを服にシュッと吹きかけた。あえて、ファッションテーマを設けるなら、"無頓着な楽ちんファッション" 。マシに言うなら、"シンプル イズ ベスト"といったところだ。
すぐにできるおしゃれとして、昨夜ヘアワックスを購入してきたイツキ。手のひらでワックスを伸ばし、髪に馴染ませるなんて、ここ数年やっていなかった。当然、うまくセットできるはずもなく、正直見た目に分かるほどの変化はなかった。それでも、かすかに漂うワックスの香りがイツキの気持ちを少しだけポジティブにした。
「今日、あっついねーーっ! ガチで溶けるレベルでやばいっ! てか、イツキ早いねっ!おまたーっ!」
少し早めに家を出たイツキが最寄駅で待っていると、いつも通りハーフアップにセットされたウェーブの髪を揺らしながら今日も元気なナナがやってきた。にこっと笑うナナは、この世の気温をさらに上げてしまいそうなくらい可愛い。肩や足は露出しており、サンダルからのぞく足には夏らしい綺麗なブルーのぺディキュアが塗られていた。暑さのためナナが手で顔を仰ぐと、日焼け止めクリームの匂いがして、より一層"夏!"という感じがした。
「ナナさん、おつかれさまです。ほんと、あついですね。」
「ねっ!! もちぐま保留くらいあっつい!!笑」
薄着のためナナの胸やお尻を含めたスタイルが際立っており、イツキはまたも目のやり場に困った。しかし、イツキにとっては、間違いなく人生史上ナンバーワンに輝く待ち合わせであり、ナナと待ち合わせできる人ってどんだけ幸せなんだ、、と思わずにはいられなかった。
「あれっ!? なんか、いい匂いしないっ!? イツキ、ワックスつけたっ?」
ナナは厚底のサンダルで背伸びをすると、イツキの頭に鼻を近づけ、すんすんと髪の匂いを嗅いだ。
「あ、ちょっ、ナナさん…! えっと、何か少しでもできることしようと思って…。」
美女に頭を嗅がれるというなんとも恥ずかしい状況であったが、下手に動くとナナの体に当たってしまいそうで、イツキはひたすらに固まることしかできなかった。
「あっ!やっぱりっ! へぇー、いいじゃんいいじゃんっ!! やる気満々だねっ!」
「せっかくなので、今日はよろしくお願いします!」
「てかっ、なーにそんな固くなってんのーっ!? 悪いようにはしないから、楽しんでこーっ!!」
今日の先生にあたるナナに対してガチガチになっているイツキに、ナナは夏の青空のような頼もしい顔で微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます