第41話:次回、デート!?

「"アレ"ですか?」


「そうっ!! "パチ友になってくれたら、イケメン風にしてあげるよ!"ってやつっ!!」


 ナナはそう言いながら、イツキに近づき、「ちょっと失礼っ!」と言ったかと思うと、急にイツキのおでこに手をやって目にかかっている長い前髪をたくし上げた。


「…………! うんっ!やっぱりっ!! イツキ、かっこいいよっ!」


 ナナは自信満々にニコッと笑った。


 イツキは、かーっと全身の体温が上がるのがわかった。美人すぎるナナが目の前にいて、何をしたらそんな匂いになるのか不思議なくらい良い香りのする手を額にあてながら、大きな目でまじまじと自分の顔を見ているのだ。"何も感じないでいろ!"という方が難儀である。イツキは恥ずかしさで前髪を戻したい一方、もう少しこの距離でナナを感じていたかった。


「どんな人でもそう。アイドルや俳優レベルにはなれないかもしれないけどっ、ちゃんと頑張れば、きっと自分が思っている以上には、かっこよくなれるし、可愛くなれるって思う。てかっ、そう思いたいっ! わたしだって、分厚いメガネとかひどい肌荒れとか、結構自信持てない時期もあったんだよっ?」


「そ、そうなんですか…!」


 イツキは、どこかでナナのことをデフォルト美人の苦労知らずだと思っていたので驚いた。周りに見せていないだけで、ナナはナナでたくさん努力をして、今のナナがあるということに気づいた。


「では、お願いします…。」


 まずは自分も努力しようと思ったイツキはナナに小さく頭をさげた。


「よーしっ!!決まりっ!! じゃあさ、早速だけど次の土曜日はっ?空いてるっ?」


 ナナは何事も行動が早く、思いっ立ったらすぐに動かずにはいられない。


「空いてます!」


 イツキは予定表も見ずに返事をした。


「おっけーっ! じゃあ、13時に新宿でどっ? てかっ、家近いし、一緒に行こっか!!」


 ナナが行く場所や日時、待ち合わせ場所を決めるのに30秒もかからなかった。


「はい!そうしましょう。よろしくお願いします。」


 イツキは言われるがまま、スマホのカレンダーに予定を打ち込んだ。


「よしっ!! 決まった!決まったーっ! じゃあ、また土曜日にっ!!」


 予定を決められて満足そうなナナが歩き去ろうとした時に、イツキは今日言いそびれてしまっていたことを伝えようと勇気を出した。


「あ、あの!」


「んっ?」


「……ナナさんの今日の浴衣姿なんですけど、、えっと、その、すごく可愛かったです。ほんとに、、すごい美人でした!」


 ナナは一瞬ハッと不意をつかれたような顔をしたが、すぐにイツキに一歩近寄り、にっと微笑んだ。


「感想言うの遅いぞーっ!! でも、、あ・り・が・とっ!!」


 浴衣を着てる時に褒めてくれればよかったのにっ!と思いつつも、ナナは内心とても嬉しかった。


 部屋に戻ったイツキは、自分の家の匂いに安心した。慣れないミスコンを見たり、尚也と語ったり、ナナとスロット勝負をしたり、まるで数日分の出来事を1日に無理やり詰め込んだかのように朝から晩まで目まぐるしい1日だった。おまけに、ナナに見た目改造をしてもらうという約束までしてきた。


 イツキはスマホのカレンダーを開き、予定を再確認した。その時、ふと思ってしまった。


(これって、ナナさんとデートなのでは…?)


 いやいや、デートではない。ただ、見た目に自信がない自分のために、そして最初の約束を果たそうとして、誘ってくれただけ。決して、デートなんかではない。とイツキは頭を振った。しかし一方で、広義で捉えてデートが2人で出かけることを指すならば、これはデートに入るのかもしれない。


 そう思うと、イツキは急にいてもたってもいられなくなり、そわそわしはじめた。土曜日って、もう3日後だぞ、着ていく服は、髪はどうする。考えても、イツキにはセンスも時間も不足していた。


 それになにより、服や髪を慌てたはいいけれど、それらを上手い感じにやってもらおうというのが、今回の趣旨であるという滑稽な事実にイツキが気づいたのは、少し経ってからだった。


 ーーイツキのアパートを後に、再び歩き出したナナはドキドキしていた。


(えっ、、なんとなく分かってたけど、イツキってふつーにかっこいいじゃん…。やばっ!!悪くないんですけどっ! てかっ、髪上げた時、思いのほか顔近くて、自分でもまじビビったしっ! ひょっとして、これって改造計画に腕が鳴っちゃう系じゃないっ? しかも、なに最後に浴衣褒めてきてんのっ! あれは反則だろっ、可愛いやつかよっ!)


 ナナにとっても今日1日は非常にハードだったが、夜道をゆく足取りは反比例するかのように軽く、嬉しそうな靴の音が響いていた。

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